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レクサスに乗って行きたい旅グルメ
能登の穏やかな海を眺めるイタリアン・オーベルジュへ「ヴィラ・デラ・パーチェ」

三方を海に囲まれた能登半島は、里・山・海が隣接したロケーションでのどかな風景を眺めながらドライブを満喫できる旅先。ここ数年次々とガストロノミックなレストランがオープンし注目を集めています。2020年に七尾市の現在の場所へ移転オープンした「ヴィラ・デラ・パーチェ」もその一つ。滞在中、七尾湾の穏やかな海、緑豊かな山、そこに暮らす人の営みという能登らしさを満喫できるオーベルジュ併設のイタリアンレストランです。能登の風土を表現した料理を目掛けて、この夏出かけませんか?

Photo:Akira Yuasa
Text:Mami Naoe
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

いつまでも眺めていたい、穏やかな七尾湾の海を望むレストランへ

海の家だった建物をリノベーション。潮風に長年あたって経年変化した趣をそのまま残している。

金沢から能登半島へとつながる「のと里山海道」にクルマを進め、徳田大津I.C.を降り、のどかな田舎道を走り抜けて、かつては塩津海水浴場であった場所へ。金沢からは約1時間半というドライブを経てたどり着いた先は、石造りの看板が目印のレストラン「ヴィラ・デラ・パーチェ」です。

クルマから降りて、まずは、目の前に広がる海の方へ。かつて砂浜だったところは、草が茂り、まるでクッションのような踏み心地。日本海というと荒波を想像しますが、ここは、ちょうど七尾湾の内側に入り、湖のように穏やかな波が揺らめいています。

にこやかに出迎えてくれたのは、平田明珠(めいじゅ)シェフ。東京出身で都内のイタリア料理店で修行後、食材を仕入れるため訪れていた七尾へ、縁あって移住し、2016年、イタリアンレストランを開業。ずっと、海を望む物件を探し、運命的に出合った今の地に、2020年に移転、オーベルジュとして再スタートさせました。昨年は、「ミシュランガイド北陸2021 特別版」にて1ツ星を獲得し、持続可能なガストロノミーを実践するレストランを評価する「グリーンスター」にも選ばれています。

周囲の景色と一体化したいと考え設計されたレストラン空間。床のブロックや天井など新しい建材もどこか海の家の名残を感じる。

ダイニングに一歩足を踏み入れれば、思わず息をのみます。北陸の空を映し込んだ藍色の海、対岸の山の稜線、草が生い茂る浜辺の風景が目に飛び込み、まるで一枚の絵画のよう。どこかヨーロッパの美しい田舎町に来たかのような錯覚を覚えます。

テーブルが3つというこぢんまりとした空間のダイニングは、かつて海水浴場の海の家だった建物。料理と景観に集中できるように、あえて厨房とダイニングの間に窓は設けず、一面白壁に設計したとのこと。席に座れば、目線の先で対岸の町にポツポツと明かりが灯り、刻一刻と変わっていくドラマチックな情景に思わず見とれてしまいます。

ふと視線を下に向ければ、能登仁行和紙に書かれたメニュー表が目に入ります。そこには食材名が並び、裏返せば、生産者、うつわ作家、空間を構成した人びとの名前がズラリと記されていました。昼、夜同じ内容というコースは、冷たいものと温かいものを織り交ぜながら展開していきます。

食材、うつわ、空間など、シェフが関係を築いていった人びとから生み出される料理

「牡蠣は山の養分が海に流れこんで美味しく育ちます。この山と海の相互で成り立っている自然の姿を表現しました」と平田さんが話す、「冷製タリオリーニ 岩牡蠣と蕨」は、宮本水産から仕入れた岩牡蠣を60度で火入れし甘みを引き出しています。蕨は、シェフ自ら山に入って取ってきたフレッシュなものを包丁でたたいてピュレにし、いしりとオリーブオイルで組み合わせたもの。篠原敬さんの珠洲焼のうつわに盛り込み、食べ応えのあるパスタ料理に仕立てています。

「冷製タリオリーニ 岩牡蠣と蕨」の蕨は、塩蔵したものではなく生をたたくことで粘りが出る。

スペシャリテは、メイン料理の前に出される「畑」。無農薬野菜の能登島・高農園、ハーブやエディブルフラワーの中能登町・あんがとう農園の食材など、50~70種類もの野菜をまるでお花畑のように盛りつけます。葉野菜の下に潜んでいるのは、ピクルスや発酵させた根菜など。ひと手間加えることで、旬を過ぎたと思われる野菜も美味しく、次の季節まで巡っていく……。そんな季節の畑を表現した一皿です。

味わいは、食感、香り、すべてが複雑に絡み合い、ひと口ごとに異なる風味が広がるようです。そして、うつわは、松本かおるさんの陶胎漆器。ある時、松本さんが「能登の赤土っぽいね」と発したことから、このうつわに盛るようになりました。

50種類以上の野菜を盛り込んだ「畑」。サラダとは一言でくくれない滋味あふれる味わい。

トスカーナ地方の郷土料理、「ズッパ・ディ・ペッシェ」は能登の海山の恵みが詰まった洗練された料理に昇華。石崎の丸蟹ベースのだしに、オコゼ、たこやパプリカ、ズッキーニ、ブロッコリーなどの野菜をトマトソースと白ワインで豪快に煮込み、漆の赤木明登さんの能登鉢に盛り込まれます。

「ズッパ・ディ・ペッシェ」は、汁まで飲み干したくなるような濃厚なうまみが体に染み渡る。

平田さんが手がける調理法は、イタリア郷土料理の技法がベースにありますが、モダン、クラシック、イノベーティブなど、どの言葉もしっくりせず、やはり、能登の営みの中で生まれた料理ということを強く感じます。

うつわも見どころです。石のうつわや漆器、ガラスなど、平田さんが能登で出合い、作家さんと親交を深めながら集めたうつわは、能登を表現するのに欠かせないもの。一皿ごとに、メニュー表で生産者や作り手を確認しながら、食べ進めていけば、能登の人びとの温もりが伝わってくるよう。七尾湾の波静かな水面を眺めながら、じっくりと美食に浸る時間となりました。

パーチェの料理を彩るうつわたち。移住後に広がる輪の中で、平田シェフの元に集まってきたもの。
シェフの平田明珠さん。

これまで順風満帆なレストラン経営かと思いきや、意外にも、移住当初は、経営状況が芳しくなく、「いつ撤退しようか」と本気で考えていたそうです。前のお店ではお客さんも少なく、時間もたっぷりあったので、山に入ることを日課にして、山菜や野草をたくさん知ることに。また、パスタ世界大会にも出場したことで、知名度も上がり、地元の声援も受けたりして苦しい時期を乗り越えたそう。「能登の自然や生産者さん、作り手によって生かされています。自分の料理は主役ではなく、能登の風景や営みを構成するほんの一部だと考えています」と平田さんはしみじみ語ります。

別棟に一日一組が泊まれるゲストルームを新設

クルマで行くと必ず悩まされるのが、“運転手はアルコールを飲めない”ということ。ヴィラ・デラ・パーチェでは、宿泊施設を付帯したことで、宿泊してアルコールを楽しむという選択肢が増えました。

宿泊棟は新築ですが、周囲の景観に溶け込めるように、さび止めなども施さず、まるで長年そこに建っていたかのような造り。庭も、同様に、元々の植栽に配慮しながら、新たに植え替えたものもあるそうですが、まったく違和感ない自然の庭です。部屋の窓からは、能登の山から、里、海へグラデーションのように移り変わってゆく景色を眺めることができます。

奥様が心地良さにこだわってしつらえ、アメニティをチョイス。テレビはなく、何もしないという贅沢な時を過ごすことができる。

宿泊する、しないに限らず、訪れた際は、散歩するのがおすすめ。「海岸沿いを歩けば、唐島社と書かれた鳥居があって、その奥は、石川県の保全地域にも指定されている原生林が広がっています。実は、この森も移転先を探していた時に知って運命を感じたところ。和倉温泉街や立山山麓も眺めることができますよ」と平田シェフ。能登のゆったりとした時間の中で、美食と自然に身を委ねる心地良い滞在となるでしょう。

Villa della paceに宿泊した翌朝の朝食・風景は動画で

【DATA】

Villa della pace(ヴィラ・デラ・パーチェ)

住所:石川県七尾市中島町塩津 乙は部26-1
TEL:0767-88-9017
営業時間: ランチ (12:00~12:30L.O.)、ディナー (18:00~19:00 L.O.)
コース:ランチ、ディナーともに15,000円(税込み・サービス料別)
宿泊:1泊2食(朝・夕食付)38,500円(税込み)
定休日:水・木曜
http://villadellapace-nanao.com/index.html

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