moment 2018年5/6月号
海外紀行 ドナウ川

ときめきの
クリスマスクルーズ

写真・竹崎恵子 文・佐藤有栄(本誌編集室)

キリスト降誕を待ちわびるアドベント(待降節)の約1カ月は、ヨーロッパ各地がクリスマス準備に浮き立つ季節。中でも中欧〜東欧の10カ国を流れるドナウ川流域では、旧市街を中心にクリスマスマーケットが立ち、一年のうちで最も華やかに彩られる。いくつものマーケットをいとも優雅に辿ることができるリバークルーズの旅へ。

最先端のリバー客船が導く ドナウ河畔の古都巡り

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ウィーン国際空港から専用送迎バスでウィーン・ハンデルスカイ港に到着した。12月のきりりと冷えた空気の中、船着場には白の船体にエメラルドブルーのラインが爽やかな「クリスタル・モーツァルト」が堂々たる姿で佇んでいた。

ラグジュアリーなシークルーズで定評のあるクリスタルクルーズが、ドナウ川にヨーロッパ最大のリバー客船クリスタル・モーツァルトを就航したのが2016年。カジュアルなリバークルーズに、上質な施設とサービスを備えた豪華客船の登場は、ほどなくクルーズ愛好家の間で話題となった。

一歩足を踏み入れると、船内の装飾はクリスマスムード一色。きらめく巨大ツリーに自ずと気分も高揚する。入口で顔写真を撮影し、IDとルームキーを兼ねたパスを発行してもらう。いよいよ船旅の始まりだ。

専任のバトラー、ラミロが客室まで案内してくれた。「ようこそクリスタル・モーツァルトへ。滞在中、必要な時はいつでもお呼びくださいね。まずは、何かお飲み物をお持ちしましょう」。これからの船上生活を24時間サポートしてくれる心強い味方である。

ウィーンを発着地にオーストリア、ドイツ、スロヴァキアを周遊するドナウ川クルーズの醍醐味は、珠玉の街々に降り立ち、中世ヨーロッパの歴史に触れることにある。そしてハイライトは、アドベント(11月下旬〜12月24日)に開かれるクリスマスマーケット。静かな街がこの時季だけは美しいイルミネーションに包まれてきらめく、特別な1カ月だ。期間限定の貴重な体験を求めて、クルーズの予約も早々に埋まっていくという。

CRYSTAL MOZART Danube River Cruise

CRYSTAL MOZART Danube River Cruise

オーストリア、ドイツ、スロヴァキアを11日かけて周遊するドナウ川クルーズ。船内での食事や飲み物、ショアー・エクスカーション(寄港地観光)、基本のチップなど、滞在費用のほとんどが代金に含まれる。全室に24時間対応のバトラーが付き、身の回りのあれこれ(望めば荷造りまで)をケアしてくれる。最新鋭の設備を備えたスタイリッシュな客室は全室スイート。広々としたバスルームにTOTOウォシュレットが完備されている。

Shore Excursionsウィーン

ウィーン

オーストリアを代表するゴシック建築、シュテファン大聖堂の塔の上からはウィーン市内、そして郊外まで見渡せる。様々な色のタイルを緻密に組み合わせたモザイク屋根も見事。

クルーズゲストだけが享受する特別なイベント

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出港地ウィーンでは2日停泊し、じっくりと街を楽しむ時間がある。ショアー・エクスカーション(寄港地観光)に参加するもよし、個人で好きな場所に行くことも可能だ。

出港の晩、2017年のクルーズの目玉となるエクスカーションがベルヴェデーレ宮殿で催された。クルーズゲストのみを招いた絵画とクラシックコンサート鑑賞会だ。

ベルヴェデーレ宮殿は世界最大のクリムトコレクションを誇り、代表作「接吻」「ユーディット」を所蔵する。ツアーでは、熟練ガイドの案内でクリムトやシーレ、ココシュカといった世紀末ウィーンを代表する画家の作品を辿る。

その後は、宮殿内の広間「マーブルホール」へ。モーツァルトとヨハン・シュトラウス、ウィーンに縁の深い彼らの楽曲をシェーンブルン宮殿管弦楽団が演奏する。加えてウィーン第2の歌劇場、ウィーンフォルクスオーパー所属のオペラ歌手とバレエダンサーも登場し、演奏に華を添えた。

「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「春の声」「ウィーン気質」などお馴染みの楽曲が流れると、華やかに着飾ったゲスト達も思わず体を揺らし、手拍子が始まる。ユーモアに溢れ、寛いだ雰囲気の演奏会が続いた。

ラストはもちろん、「美しく青きドナウ」。ドナウの別名“母なる川”を思わせる典雅な調べにのせたワルツの舞とともに、会は大団円を迎えた。

まるで、往時の貴族が催す親密な集まりに招かれたような、特別な時間……。誰もが立ち去りがたく、その余韻を楽しんでいた。

ホテルディレクターのマーティン・ネンコフは「これは我々からの歓迎セレモニーです。これから始まるクルーズが、そしてクリスタル・モーツァルトでの滞在がゲストにとってより素晴らしいものになるようにとの思いをこめて」と教えてくれた。

華やかな幕開けとともに、クリスタル・モーツァルトは真夜中のウィーンを出港した。

※2018年のクリスマスクルーズは、バロック建築の最高傑作のひとつと称されるリンツ郊外の修道院「サンクト・フローリアン」での音楽鑑賞会を予定しています。

川岸に見るドナウ悠久の歴史

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ドイツの「黒い森」を源流にウクライナまでの10カ国を経て黒海に注ぐドナウ川は全長2888キロ、ヨーロッパ第2の大河だ。中でも、オーストリアのクレムスからメルク間約40キロに延びるヴァッハウ渓谷はドナウ川屈指の景観で、世界遺産。渓谷に広がる葡萄畑と、その中に建つ古城や寺院の組み合わせが秀逸なのだそうだ。

残念ながら12月にその絶景は望めないものの、見どころは、川岸に点在する中世の家並みだ。高い塔は教会で、ここを中心に集落が形成されたことがわかる。断崖に聳えるアックシュタイン城は12世紀の石城だ。ドナウを見下ろすように建つシェーンビュール城は元々9世紀の要塞だったところ……。部屋の窓越しに過ぎゆく川岸の風景は、ドナウ悠久の歴史や人びとの営みを映し出していた。

ヴァッハウ渓谷を過ぎると、次の寄港地メルクのシンボル、美しいメルク修道院が現れた。修道院の歴史は古く、11世紀にはベネディクト派の修道士が共同生活を送っていたという。ショーン・コネリー主演で映画化もされたウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』にも登場する。フレスコ画に彩られた歴史的な図書室は約1800冊の手書き本が収蔵され、最古は9世紀のものだという。「さりげないが、すごい」。そんな街がいくつもあるのがドナウ川の底力だ。

船はこの後リンツ、パッサウ(ドイツ)、ブラティスラヴァ(スロヴァキア)などに寄港し、いよいよクリスマスマーケット・ホッピングが始まる。

Shore Excursionsリンツ

幻想的な光に包まれた“アートの街”逍遥

オーストリア有数の商工業都市・現代アート都市として知られるが、その歴史は古代ローマ時代に遡る。かつて天文学者のケプラーが観測に打ち込んだ地であり、モーツァルトが滞在中3日で交響曲「リンツ」を書き上げたという逸話が残る。クリスマスマーケットは、ドナウ川の南側にある旧市街の広場で開かれる。この時季の旧市街は天使をモチーフにあしらった幻想的なイルミネーションに彩られ、そぞろ歩くだけでも心が躍る。

Shore Excursionsザルツブルク

モーツァルトの生誕地にして世界遺産の旧市街へ

8世紀より大司教を領主に置く宗教都市として栄えた。また、モーツァルトの生誕地としてあまりにも有名だ。ザルツァッハ川を挟んだ旧市街と新市街は1996年、世界文化遺産に登録されている。見どころは旧市街で繰り広げられるクリスマスマーケット。大聖堂を背景にしたレジデンツ広場やドーム広場を中心に、狭い路地にも可愛らしいマーケットが点在する。リンツからの1日エクスカーション。