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Japanese Wine
世界が認めた日本の新銘醸ワイン産地「余市」を味わいに行く

北海道・余市のワインが世界的に注目されていることをご存知だろうか?近年、国内のみならず希少なワインを求めて余市を訪れる海外のワイン愛好家も多い。ウイスキーの町からワインの町へ。そんな時代のうねりを感じるワイン産地の“今”と注目のワイナリー、そして訪れたら絶対に行くべきレストランからバーまでをワインジャーナリストの浮田泰幸さんが教えてくれた。

Photo&Text:Yasuyuki Ukita
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

世界No.1レストランが実力を認めた日本のワイン

刻一刻と加速の度合いを増すかに見える気候変動の影響もあって、世界のワイン地図は塗り替えを余儀なくされている。

古くからの有力ワイン産地が、不作、品質劣化の不安、ブッシュファイアー、価格高騰、売上減少などで苦しむ一方で、無名の新興ワイン産地がにわかに脚光を浴びるようになった。その一例が北海道の余市町だ。

ドメーヌ・タカヒコ、ナナツモリの畑。

きっかけになったのは「世界のベストレストラン50」のNo.1に5度輝くコペンハーゲンの「ノーマ」のワインリストに余市のドメーヌ・タカヒコの「ナナツモリ ピノ・ノワール2017」が載ったことだった。「ナナツモリ」は、冷涼地で、かつ果樹栽培の長い実績のある余市の利点を活かし、人為的な介入を抑えたナチュラルな造り。滋味あふれ、独特のうまみと複雑みを持ち味とする。からだに沁み渡るような酒質も特徴的。これがノーマの新ノルディック料理と見事にマッチしたかたちである。

収穫ボランティアに指示を出すドメーヌ・タカヒコの曽我貴彦さん。

2020年2月に「ナナツモリがノーマに」のニュースが配信されると、「日本ワイン」「北海道」「余市」というワードがワイン名とともに世界に拡散され、ワイン愛好家たちの間で喧伝された。するとすぐに「ナナツモリ」はオークションサイトで元値の数倍で取り引きされるようになり、その空き瓶にさえ値段がついた。

Yoichi LOOPのセラーには入手困難な余市のワインがズラリ。

10年余りで、日本ワインの注目産地となった余市

2010年に長野出身の曽我貴彦さんが余市の果樹園だった土地にブドウを植え、ワイナリー「ドメーヌ・タカヒコ」を立ち上げたとき、町内に既存のワイナリーはひとつしかなかった。それから10年余りの間に一気に産地形成が進み、2025年内には20軒目が開かれる見込みである。新規就農者には曽我さんの門下生が多いこともあって、いずれもワインの品質は高く、味わいの特徴には共通するものがある。

収穫を待つナナツモリのピノ・ノワール。

ワイン造りが活況を呈するにつれ、町には地元産のワインを売りにする飲食店やオーベルジュスタイルの宿泊施設が相次いで開業。かつては“ニッカウヰスキーの里”として知られるのみだった余市は、新たに“ワインツーリズムのデスティネーション”という横顔を持つようになった。

2025年3月に発売されたゴ・エ・ミヨの最新版に「Yoichi LOOP」が掲載されたが、すでに掲載されていた「余市SAGRA」とテロワール賞を獲った「ドメーヌ・タカヒコ」を加え、これで3軒目の掲載となった。人口17,000人ほどの小さな町としては異例のことだ。

「Yoichi LOOP」は余市駅前に立つ。

“幻のワイン”と出合いに、余市へ

余市のワイナリーの大半は年間生産本数20,000本以下と小規模で、それゆえに多くのワインが入手困難、中には“幻の”との形容がつくものも少なくない。しかし、諦めるのはまだ早い。曽我さんを筆頭に多くの造り手が地元優先でワインを出荷しているので、余市のしかるべきところに出向けば“幻”とも出合うことができるのだ。

LOWBROW CRAFTの醸造所に並ぶ自社ボトル。

余市らしさが表現されたワインを造るおすすめの生産者と、彼らのワインが楽しめる余市の飲食店を紹介しよう。

余市川両岸のなだらかな丘陵地に、果樹園や森とパッチワークをなしてブドウ畑が広がる余市の風景は美しい。その風土をボトルに閉じ込めたようなワインをぜひ現地に出向いて味わっていただきたい。


余市の注目のワイン生産者

ドメーヌ・タカヒコ:

左/ナナツモリの畑で作業する曽我貴彦さん。右/ドメーヌ・タカヒコのワイナリー。

曽我貴彦さんのワイナリー。世界がその価値を認めた「ナナツモリ ピノ・ノワール」、貴腐ブドウによるもうひとつのフラッグシップ「ナナツモリ ブラン・ド・ノワール」など。


ドメーヌ・モン:

ドメーヌ・モンの山中敦生さん。

曽我さんの門下生、山中敦生さんが立ち上げたワイナリー。ピノ・グリを果皮ごと醸すオレンジワインの製法で造る「ドン・グリ」で特色を出す。


平川ワイナリー:

平川ワイナリーの「ノートル・シエクル グランド・キュベ」。

フランスと日本でサービスと醸造の道を極めた平川敦雄さんが余市の土地の高いポテンシャルに賭けて興したワイナリー。美しい酸を有する精緻な造りのワインには定評がある。


モンガク谷ワイナリー:

シャルドネ主体の「栢」(写真左)と貴腐ブドウを使った甘口の「貴婦桧」(写真右)

7種類のブドウを栽培。フィールド・ブレンド(混植・混醸)によって、余市のテロワールを映すワインは、世界的に影響力のあるワインジャーナリスト、ジャンシス・ロンビンソンさんも「飲んだことのないタイプで面白い」と高評。


登醸造:

登醸造の小西史明さん。

小西史明さんは自社畑の収穫の7割を他社に売り、3割を自ら醸造するというスタイル。フラッグシップの「セツナウタ」は、皮醸しをしないロゼワインとしてスタートしたが年々少しずつ造りを変え、赤に近づいているという珍品。


LOWBROW CRAFT:

LOWBROW CRAFTの赤城学さん(写真左)、北海道固有の品種「旅路」を使用した発泡性ワイン「TABIJI 2024」(写真右)。

曽我門下の赤城学さんが興したワイナリー。ロックンロールでポップな印象のラベルとは裏腹に、ボトルの中身はどれも繊細ですいすいと飲める。


【余市ワインが飲めるレストラン&ワイナリー】

Yoichi LOOP:

地元銘柄が揃うファインダイニングのレストランを擁するワインホテル。総支配人の倉富宗さん(写真左)は東京のミシュランガイド星付きレストランでもサービスをしたベテラン・ソムリエ。スペシャリテの「ニシン/ほうれん草/海苔」(写真中)。シェフの成田汐哉さん(写真右)は東京の「カンテサンス」などで修業経験がある腕利き。
URL:https://yoichiwine.co.jp

余市SAGRA:

札幌で人気のイタリアン・レストランを営んでいた村井啓人さんが、この地方の食材に惚れ込んで通ううち、生産者の近くで料理がしたいと思い、移住。宿泊も可能。場所はドメーヌ・タカヒコのすぐ近く。
URL:https://sagra.jp

Qunpue:

倶知安町の旅館「坐忘林」でソムリエをしていた新居真美さんが余市のワインに惚れ込み、貴重な余市ワインを気軽に楽しめる店を開きたいとの思いで開業。ドメーヌ・タカヒコの希少な「ブラン・ド・ノワール」がグラスで飲める。
URL:https://www.instagram.com/qunpue/

かくと徳島屋:

大正13年創業。4代目当主當宮弘晃さんは京都の「本家 たん熊」で修業し、料理の腕を磨いた人。ドメーヌ・タカヒコ、ドメーヌ・アツシスズキ、ドメーヌ・モンの3社のワインがグラスで飲める「Vin de 時候膳」というコースメニューが人気。
URL:https://www.instagram.com/kakutotokushimaya/

キヘン:

余市町のワイン生産者「MARUMEGANE」の大野崇さんが余市駅前に開いたワインショップ&ワインバー。地元ワインは主にグラスで販売(本人のワインは扱っていない)。ほかにも欧州などのナチュラルワインを扱っており、ほかの余市の生産者からも重宝されている。
URL:https://www.instagram.com/kihen_wine/

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