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日本のものづくり
祝・日本酒の無形文化遺産登録。週末は世界が評価する益子の酒蔵「外池酒造店」へ

週末は「世界遺産」をテーマに旅をしてみるのはいかがだろうか。おすすめは、東京からクルマで約2時間半の栃木・日光と益子を巡るルート。まずは日光に宿泊し、「日光東照宮」や「日光二荒山神社」といった世界遺産を訪ね、歴史と自然の魅力を堪能。翌日はそこから1時間ほどの益子へクルマを走らせ2024年に無形文化遺産に登録された日本酒の「伝統的酒造り」を体験できる老舗「外池酒造店」へ。地域に根ざした酒蔵を訪ねることは、文化を学ぶ旅のひとつの形でもある。

Photo:Hiroaki Ishii
Edit&Text:Misa Yamaji(B.EAT)

世界遺産を堪能する、日光・益子ルートの醍醐味

東京からクルマを走らせて約2時間半。週末の小旅行にぴったりの距離にあるのが、栃木県の日光を巡るルートだ。

徳川家康が祀られる世界遺産の「日光東照宮」や山岳信仰の中心「日光二荒山神社」を訪ね、日本の精神性や建築の美しさに触れるのは、大人になって知る旅の醍醐味だろう。中禅寺湖の周りの大自然も日頃の張り詰めた気持ちを緩めてくれる。

さらに、時間があるならぜひ足を延ばして欲しいのが陶芸の街・益子だ。

「外池酒造店」の蔵元外観。益子町で80年以上の歴史を持つ老舗酒蔵。

益子を訪れたら気になる窯元や器屋を巡るのもよいが、ぜひ立ち寄って欲しいのが、2024年に無形文化遺産に登録された日本酒の「伝統的酒造り」を気軽に学べる益子唯一の酒蔵「外池酒造店」だ。

この酒蔵の酒は、国際的なコンペティションで評価も高く、海外のファンも多い。「燦爛 純米大吟醸 夢ささら」は、フランス「Kura Master 2022」でプレジデント賞を受賞し、2023年のG7栃木・日光会合ではウェルカムドリンクとして提供されたという実績を持つ。

しかも、一年中蔵で日本酒の造り方を学ぶツアーを開催していて旅人にオープンなところも魅力なのだ。

写真上/創業当時の「外池酒造店」。写真下/現在の蔵人は5人。中央にいるのが3代目社長の外池茂樹氏。

1937年創業の「外池酒造店」は、益子に唯一残る造り酒屋。

1829年に宇都宮で創業した外池荘五郎商店をルーツとし、分家として益子に根を下ろした。以来、敷地内に湧き出る清らかな水と、冬の厳しい寒さというこの地の気候とともに、酒を造りつづけている。

仕込み水は、敷地内の井戸から汲み上げる鬼怒川の伏流水。

酒蔵の味の決め手となっているのが湧き水だ。

栃木県には日光連山に源を持つ鬼怒川、那須連山から流れている那珂川、渡瀬川と3つの水系があるが、外池酒造店の敷地内から取水しているのは、鬼怒川の伏流水(ふくりゅうすい)。

この軟水特有の柔らかさが、酒の口当たりがまろやかになる特徴へとつながっている。

酒造りは昔ながらの寒仕込み。ぐっと気温が下がり、息が白くなる10月から翌年5月までは毎日麹を仕込み、一年分の酒を造っている。

麹は手作業で毎日仕込む。

メインブランドは『燦爛』と『望(bo:)』、『外池AUTHENTIC』の三つ。

「外池酒造店」の第一ブランド『燦爛(さんらん)』は、酒蔵の看板商品。使用される酒米は、兵庫県産の山田錦(精米歩合約40〜50%)、栃木産の五百万石(精米歩合約55%)、そして栃木県独自の酒米「夢ささら」(精米歩合約50%)などを使用。地元で日常的に親しまれる純米酒から、国際的な品評会で高評価を得る純米大吟醸まで、幅広いラインアップが魅力だ。

写真左から「外池 AUTHENTIC 純米大吟醸袋吊り雫酒」11,000円、燦爛大吟醸を特別に30カ月氷温貯蔵した酒「燦爛大吟醸山田錦氷温貯蔵酒」5,500円、2023年のG7栃木・日光会合で振舞われた「燦爛 純米大吟醸夢ささら」2,660円、2024年全米日本酒歓評会で金賞を受賞した「燦爛 純米吟醸」2,180円(いずれも720ml、価格は税込み)。

一方、2012年にスタートした第二ブランド『望(bo:)』は、伝統と革新を融合させた挑戦的なシリーズ。五百万石、夢ささらに加え、栃木県産の「とちぎの星」、長野県産の「美山錦」など多様な酒米を使用し、それぞれの米の特徴を活かして仕込んでいる。

「望(bo:)」に使われる米の種類の一部。

醸す酒は加水しない純米酒。無濾過かつアルコール度数16度で統一され、酵母の選定もきめ細かい。協会7号、1401号、1801号などを組み合わせ、香り・口当たり・後味のバランスを探っている。これらは小売せず、限られた特約店でのみ味わえる。

「望(bo:)」は全部で20ラインアップ以上ある。特約店で見つけたらぜひ飲んでみてほしい。

さらにこの蔵の個性を象徴する一本として試してみたいのが蔵の最高峰「外池AUTHENTIC 袋吊り雫酒」だ。これは、もろみを布袋に詰めて吊るし、加圧を一切せずに自然に滴り落ちる雫だけを集めた、極めて手間のかかる仕込みで醸される一本。

兵庫県産の山田錦を精米歩合約40%まで磨き上げ、低温でじっくりと時間をかけて発酵させる。出来上がった酒は、透明感がある澄んだ味わいながら奥に深いうまみが感じられる。口に含めば、メロンや白桃を思わせる柔らかな香りが立ちのぼり、舌の上でさらさらとほどけるような繊細な味わいが広がっていく。

雫酒の仕込み。袋に入れてゆっくりと酒が落ちていくのを待つ。

この雫酒は、2023年のSake Competition Super Premium部門で第3位に入賞。限られた製法からごくわずかしか取れない希少性もあり、まさに「外池酒造店」の職人技と美意識の結晶ともいえる。冷酒で5〜10℃に冷やすと、その魅力がいっそう引き立ち、余韻の透明感まで味わい尽くしたくなる。海外の引き合いも多く、先日はアメリカから数百ケース購入できないかとオファーがあったそうだ。

酒を学び、味わい、体験する。開かれた蔵の哲学

そしてこちらの酒蔵を旅のスポットとしておすすめしたい理由は、高品質な酒造りをしているということのほかに、酒造りについて学ぶミニツアー(要予約)をしているところにある。

広く一般客を受け入れるようになったのは、約40年前。日光の一大観光ブームの時代、訪れる観光客に広く日本酒のことを知ってほしいと、開かれた酒蔵づくりをしたことがきっかけだった。

敷地内は酒造りの蔵と、見学用の蔵に分かれている。
貯蔵庫だったところを資料室にしてここで日本酒造りの説明をする。
昔使っていた道具なども展示。

実際に酒造りを仕込んでいる現場を見学はできないが、酒造りの工程を紹介するパネルや、実際に使われていた道具の展示が並ぶ元貯蔵庫のスペースで、蔵人による日本酒造りを学ぶミニツアーは、子どもから大人までだれでも参加できて楽しい。

案内も丁寧で、初心者にもわかりやすく、日本酒がどのように生まれるのかを知ることができる。

希少な酒を試飲、そして購入

隣接されたカフェ。

見学のあとは、併設のカフェスペースへ。

ツアー(有料1,000円)に参加した方は、その日おすすめの3種類をテイスティングできる利き酒セットを楽しめる。この日は運転を友人に任せて、3種類味わってみた。

蔵見学参加者だけの利き酒セットは日によって変わる。ごぼうのたまり漬けなどのおつまみが付いて1,000円(税込み)。

最初に味わった「燦爛 大吟醸金賞受賞酒」は、うまみが濃く、華やかな香りとともに口の中に深みのある味わいの余韻が長く続く。

続いて「燦爛純米吟醸 夢ささら」は、ふくらみがある味わいながら、香りはどこか青リンゴのような爽やかさがあり、綺麗な酸とのバランスがよい。最後には春限定の「燦爛純米吟醸 無濾過生原酒」。こちらは、春の清流のようなクリアな味わいに水のまろやかさを感じることができる酒。ふくらみのある味わいは、山菜などにも合いそうだ。

いずれも淡麗で、香りが芳醇。蔵の技術力の高さと丁寧な造りを実感した。

蔵見学参加者でお酒が飲めない方にはコーヒーと焼き菓子のセット1,000円(税込み)を。

そのほか、「雫酒」のグラス売りや、サーバーで量り売りされている日本酒もあるので、つまみとともにゆっくり飲み比べをできるのは日本酒好きにはたまらないだろう。

ドライバーの方には、仕込み水で淹れたコーヒーと焼き菓子のセットがおすすめだ。仕込み水で淹れたコーヒーは雑味がなく香り高い。仕込み水そのものも自由に飲むことができるのでぜひ酒の源になる水を味わってほしい。

益子焼きの作家物の器も展示。日替わりでサーバーからさまざまな日本酒が楽しめるのもいい。

販売スペースでは、都内では入手困難な限定酒も多く取り揃えられており、自宅用にも土産用にもつい買い込みたくなってしまう。

旅の思い出にふさわしい一本に出合えるはずだ。


外池酒造店

住所:栃木県芳賀郡益子町大字塙333-1
電話番号:0285-72-0001
営業時間:9時〜17時(カフェラストオーダー:16時30分)
定休日:無休
見学:3日前までに要予約(試飲セット付き 税込み1,000円)。
カフェ:併設のカフェで利き酒セットやコーヒー、ケーキセットを提供。
アクセス:北関東自動車道「真岡I.C.」から車で約30分。
駐車場:あり(無料)
URL:https://www.tonoike.jp

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