金沢の注目レストラン
金沢の名店「銭屋」で、器と料理の美に浸り、季節を感じる
加賀藩のお膝元、金沢ではさまざまな工芸や食文化が発展してきた。そんな歴史に楽しく触れるのであれば、金沢に根づく料理屋で美味しいものを食べるのが一番だろう。今回は1970年創業の料亭「銭屋」に、彼らの料理と器についてお話を伺った。
Edit&Text:Misa Yamaji(B.EAT)
金沢の歴史ある飲食店が並ぶ片町にたたずむ料亭「銭屋」は、1970年の創業以降、長年さまざまな美食家たちの舌を唸らせてきた。
現在は二代目当主、髙木慎一朗氏が主人となり、料理長に弟の二郎氏が就任し二人三脚で店を守る。2016年と2021年にはミシュランガイド二ツ星を獲得。料亭らしい風情のある個室で、北陸の美味を時にシンプルに、そして時にモダンに仕立てた料理を美しい器とともにいただけると、日本人のみならず海外からはるばる海を越えてやってくるゲストも多い人気店だ。
「金沢は加賀藩の影響が色濃く残る街です」と料理長・髙木二郎氏。
「富山・福井・石川は戦火を逃れたということもあり、芸事や文化が花開いた加賀藩前田家の時代の流れが器に限らずその他の工芸や料理にも表れている日本でも珍しい場所だと思います。魯山人が金沢のそうした食文化を愛して滞在し、陶芸の修行をしていたくらいですからね」と話す。
「銭屋」では、先代のころから集めた古九谷、大樋焼、須田菁華、輪島塗などに加え、慎一朗氏、二郎氏好みの県外の古い器やモダンな器なども登場するようになった。
「料理の考え方と同じで、すべて石川県のもの、というような縛りはありません。しかしながら、やはり地域性は大切にしたい。ですから器も金沢や石川県のものは多く使用しています。料理や器を通じてこの場所でしか味わえない体験にお客さまが喜んでくださると思いますから」と二郎氏。
今回取材時に作っていただいた料理は2種。
お造りの盛り込みは、九谷焼の名工、初代・矢口永寿の乾山写の菊皿に。初代・矢口永寿は書や料理にも秀で、魯山人とも親交があった人物だ。
のびやかな曲線の器が、お造りを生き生きと引き立てる。色鮮やかな菊の文様の皿からは秋の訪れを感じるだろう。
二郎氏が器を考える順番は、「料理と季節をまず考え、さらにお客さまをどうおもてなししようか、ということからイメージします」とのこと。
例えば、のどぐろと松茸の焼き物。8月の終わりから9月初めのまだ残暑がある季節ならば、あえてガラスの器に盛り込む。
食材は秋を先取りしながらも、器では目で涼んでもらおうという趣向だ。
二郎氏は、さらに器によって、料理の表情がガラリと変わることを、盛り変えて見せてくれた。
「例えば同じ料理を10月に出すのなら、この四代目 須田菁華の器ですかね」。
確かに、同じ料理でもこちらはぐっと秋が深まったようなイメージになるのが面白い。
「この器は、もともと染付でした。それを先代が四代目 須田菁華さんに色絵を付けてほしいと頼んで作ってもらったうちだけのオリジナルです。昔から器の作家と料理人はそうやってコミュニケーションし、試行錯誤していいものを作ってきました。慎一朗と私も今、金沢の若い作家集団『secca』と一緒にオリジナルのお皿を作って店で使っているんですよ」と二郎氏。
「銭屋」は、古いものだけでなく、こうした金沢の歴史や伝統を受け継ぎながら、そのDNAを現代的に解釈したものに触れられることも人気の理由だろう。
10月の珠洲の松茸、11月はズワイガニの解禁、そして11月2週目くらいから始まる罠猟の鴨と、これから冬にかけての美味がどんどん登場する。ぜひ北陸の美味と器のマリアージュを楽しみにでかけてみてはいかがだろうか。
日本料理 銭屋
住所:石川県金沢市片町2-29-7
電話番号:076-233-3331
営業時間:17時30分~18時30分(最終入店)
定休日:不定休
URL:https://zeniya.co.jp/