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東京の注目店
あの名店のDNAを引き継ぐ、虎ノ門に現れたすき焼きの新星 「すき焼き あさい」

かつて名士たちが愛したすき焼き店のDNAを持つ店が虎ノ門にオープン。座敷で鉄鍋を囲む昔ながらの店ではなく、スキッとしたカウンターに座って仲居さんが焼いてくれるすき焼きを楽しむスタイルは、日本人のみならず、海外の方の接待にも好評だ。進化しているのはインテリアだけではない。肉も野菜も今の時代の最高のものを追求し、伝統を踏まえつつより満足感のあるものにしている。品揃えの豊富な極上ワインとともに食べ応えのあるすき焼きを楽しんでみてはいかがだろうか。

Text:Misa Yamaji (B.EAT)

「すき焼き」にみる伝統と進化

かつて、赤坂に「よしはし」というすき焼きの名店があった。

歌舞伎役者の八代目坂東三津五郎の元邸宅を改装した風情ある雰囲気。檜のカウンターが美しい1階席、座敷の2階席で仲居がつきっきりで作るすき焼きは食通たちにも愛されていた。しかし、その「よしはし」は2016年に建物の老朽化により惜しまれつつ閉店。8年後に同店のソムリエと仲居だった人物が集まり、「よしはし」のDNAを受け継ぎつつも、現代に求められるすき焼きの味を追求し、誕生させたのが「すき焼き あさい」だ。

8人席のカウンターと、6人席のカウンターの部屋のみ。貸切も可能。

そう聞くと、昔ながらの店を想像する読者もいるだろう。しかし、「あさい」は、従来のすき焼き店をより進化させた独自のスタイルがある。

まず、店内はよくある座敷ではなく、カウンターメインの割烹のようなたたずまい。各ゲストの目の前で、一組ずつ仲居さんが四角い鉄鍋ですき焼きを作ってくれる臨場感はそのままに、少人数でも入りやすい雰囲気に。ゆったりとした椅子席は、海外のゲストにも好評だ。

厚めにカットされたすき焼き用の肉。一人3枚だが、トータルで170g前後にもなる。

そして主役の肉も一般的な高級すき焼き店とは一味違う。通常は松阪牛などのサシが入った柔らかいとろける肉を使用することが多いだろう。

この店で使用するのは滋賀の人気精肉店「サカエヤ」から仕入れる近江牛。大切なのはサシを重視したとろける食感、ではなく、サシと赤身のバランスのよさを大切にした味わいと風味。そのため部位もサーロインではなく、ロースやリブロースを選ぶという。さらにその肉を「サカエヤ」の店主・新保吉伸氏が3-4mm厚さに手切り。この部位の選別と肉の厚みこそが、美味しさの秘密のひとつだ。

目の前で作ってくれるメレンゲ。黄身を潰さないように泡立てるのはかなり難しい。

その肉を引き立てる卵もまた、こだわりあり。平飼いの卵を使うのだが、特徴的なのはメレンゲ状になっていること。器に割り入れた卵を、仲居さんが目の前で器用に卵白だけを箸で泡立てていくのだが、その様はまさに職人技だ。

この、すき焼きの肉をからめる卵をメレンゲ状にするアイデアは「よしはし」の女将によるもの。メレンゲにすることによって卵独特の臭みや白身のドロッとした食感が消え、非常に食べやすくなる。同店を訪れたことがある人ならば、リズミカルに卵をかき立てる音を懐かしく感じるかもしれない。

肉を焼いてから、砂糖、しょうゆ、日本酒で作った割下で焼き付ける。

ふわふわの卵が準備されたら、いよいよ目の前の鉄鍋ですき焼きが作られていく。

「あさい」で用意される一人前の肉は、4mmの厚さの肉を1枚と3mmの厚さの肉が2枚。鉄鍋を熱し、牛脂を馴染ませたらまずは4mmにカットされた肉を投入。しっかりと焼き付けてから、割下を加え、からめながら焼いていく。割下を使うが、“肉を焼く”のがポイント。いわば関西風と関東風のいいとこ取りがこの店のスタイルだ。

焼いている肉に、割下が注がれるとジュジューっという音とともに香ばしい香りがふわっと広がる。しっかりと肉が焼き上がったらすかさずふんわりとした卵白の上へ。まずは黄身を潰さずに、優しいメレンゲに包んで肉を食べてみてほしい。4mmの肉は肉厚で、すき焼きとは思えないみっしりとした歯応えに驚くだろう。甘辛い割下がからんだパンチある肉のうまみが口に広がり、“肉を喰らう”醍醐味を感じることができる。

野菜は、ねぎや焼き豆腐、椎茸などの定番に、季節を感じる旬のものが盛り込まれる。

続いて3mmにカットした肉は、少しレア気味の焼き方で。より和牛の柔らかさが強調され、黄身も崩した卵にからめるとその優しい風味が強調される。残りの一枚は、添えられている土佐酢ベースのタレで食べるのもおすすめだ。

野菜は一見シンプルだが、従来の焼き豆腐や椎茸、ねぎに加え、アスパラやクレソンなど少しモダンな野菜も盛り込まれている。豆腐は「京の地豆腐」で知られる久在屋の焼き豆腐。葱は豊洲市場の青果・丸越から仕入れた千住葱。アスパラガスは当代きってのアスパラ名人、長谷川博紀さんのジェットファームからと、野菜とはいえ一つ一つの食材のセレクトにもぬかりはない。

肉を焼いてうまみが詰まった割下に昆布と鰹の出汁を加え、野菜を投入。汁気を吸わせて焼き付けていく野菜はすき焼きならではのご馳走だ。

野菜を焼いたあとに投入し、チリチリと焼き上げる白滝は最後のお楽しみ。黒七味をたっぷりとかけていただくのだが、くせになる食感と香ばしい香りがたまらない。この白滝は「あさい」の隠れた名物だ。

ソムリエが厳選したワインの種類は豊富。銘醸ワインを希望の方は予約時に相談を。

また、こちらはワインの品揃えが非常に豊富なのも特筆すべき点だろう。ブルゴーニュやシャンパーニュを中心としたワインのストックはなんと300本。

銘醸ワインとすき焼きを楽しめる店はなかなかないので、ワイン好きならばその相性のよさをゆっくりと楽しんでみてはいかがだろうか。

すき焼き あさい

住所:東京都港区虎ノ門3-11-15 SVAX-TTビル 1階
電話番号: 03-6452-9995
営業時間:11時30分〜15時、17時30分~23時
定休日:水曜、日曜日
URL:https://www.sukiyaki-asai.com/

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