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奈良の注目レストラン
奈良の一軒家「アコルドゥ」で味わう、土地の記憶を映すガストロノミックな料理

「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」ほか、ホテルも続々開業し、海外の旅行客でにぎわう奈良。その奈良でミシュランガイド二ツ星に輝きつづける「アコルドゥ」は、国内外のゲストからの予約も絶えない人気店。奈良公園の緑に包まれた一軒家のレストランでは、壮大なスケールの奈良の記憶を感じる料理がいただけます。

Text:Misa Yamaji(B.EAT)

時を超えた土地の記憶と人の記憶が交錯する場所

「夏は終わり 秋が訪れ 冬を過ごし また春が来る。」

「アコルドゥ」のホームページをみると、最初にこの言葉が書かれています。

神話が残る歴史の深い奈良は、四季を何度も繰り返しながら、土地の恵みを実らせ、独自の文化を醸成してきました。

バスク語で“記憶”と名付けられたこの店でオーナーシェフ・川島 宙氏が作るのは、そんな土地の記憶に、川島氏自身の記憶を織り込んだどのジャンルにもあてはまらない、ガストロノミックな料理です。

「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」の目の前。

レストランがあるのは、奈良のなかでも歴史が深い奈良公園の敷地内。風情ある白壁の一角に、ひっそりと門が開かれています。

奥の小さな青い扉を開いて一歩入れば、そこは、日本的な外観からは想像がつかない別世界。奥のダイニングでは、連日遠方からやってくる国内外のグルマンたちが思い思いに食事を楽しんでいます。

1971年生まれの川島 宙シェフ。

どことなく、ヨーロッパ郊外のミシュランガイド星付きレストランのような雰囲気が漂うのは、オーナーシェフの川島宙氏の辿ってきた道からくるのでしょう。

川島氏は、「ホテル西洋 銀座」で料理の基礎、「ホテルオークラ」でサービスを学び、「京都センチュリーホテル」で腕を磨いた人物。

その後、“人生を変える”一冊の本と出合ったことがきっかけで、スペイン・バスクのレストラン「ムガリッツ」のアンドニ・ルイス・アドゥリスシェフの元で研鑽を積みます。帰国した2008年に自身の店、モダン・スペイン料理「アコルドゥ」を奈良・富雄にオープンしました。

まずは、ウエイティングルームでハーブティを飲んで一息。

その後、建物の老朽化で一旦自身の店を閉店しますが、2016年現在の場所で再始動します。

扉を開けてレセプションスペースを通り、広いダイニングに案内されれば、大きく切られた窓からの景色に思わず息を飲むはず。席につけば、奈良公園の敷地から続く森を借景にし、緑に包まれるような気持ちよさを感じるでしょう。大きな石畳につながる庭は、どことなく、「ムガリッツ」の庭を彷彿とさせます。

ゆったりと丸テーブルが配されたダイニングルーム。食事中、タヌキなどの野生動物が窓の外に遊びにくることも。

「ムガリッツ」での経験で、前衛的な料理のなかにも、誰もが分かち合える記憶に触れる部分があることが、非常に印象に残ったと話す川島さん。「自分が料理を通して得られた幸せの記憶を、ゲストと分かち合えたら」という思いで作りつづける料理の根底には、そんな忘れ得ぬイメージが流れているのです。

そして、奈良のなかでも特に歴史が古い特別な場所に移転し7年が経った今。「この地でレストランを営んでいくうちに、 “奈良という土地に眠る記憶”も料理にしたいそんな思いが自然と湧き上がってきましたね」と自身の歩みを振り返ります。

一枚ずつカードをめくりながら楽しむメニュー。

例えばこちらの「大和牛のアサード ロメスコ 燻したネギと秋津穂米」という料理。主役は炭火でじっくりと焼かれ、稲藁でさっと燻した秋の情景を感じる大和牛ですが、もうひとつの主役は下にある秋津穂米のリゾットです。

秋津穂米は日本酒「風の森」の原料になっている奈良県の杉浦農園が作る酒米。神武天皇時代に登場するトンボの古名「秋津」と稲穂から名付けられたこの酒米は、2022年の皇室献上米にもなったという逸品です。

「大和牛のアサード ロメスコ 燻したネギと秋津穂米」。テーブルに運ばれてきた瞬間、稲藁で燻した香りがふわりと漂う。ネギは大和野菜の結崎ネブカ。

秋津穂米は日本酒の原料となる米なので、そのまま“食べる”機会はほとんどないもの。しかし、少し硬めで清らかな味の米はリゾットに実によく合います。こうした食材の”知られざる魅力“を鮮やかに表現した料理には、その後ろに隠れている奈良の神話や米農家の取り組みなど、さまざまなストーリーも込められているのです。

一方、“いにしえの奈良”だけでなく、“新しい奈良”の魅力もふんだんに取り入れた料理も登場します。「三輪山本 手延べパスタ麺 漆黒のジェノベーゼと半生の海老」という料理に使われている「吉野游水えび」は、なんと奈良県産。

「三輪山本 手延べパスタ麺 漆黒のジェノベーゼと半生の海老」。漆黒のソースは赤紫蘇とあさりの出汁を合わせてピューレにしたもの。「吉野游水えび」は入荷のあるときだけ使用。

奈良は海なし県では?とたずねてみると、最近奈良県が力を入れている、陸上養殖のものだとのこと。さらに、しっとりとした海老の身と相性のよいつるんと喉越しのいい“パスタ麺”は、奈良県の特産品・素麺の手法をデュラム小麦で応用した進化系。

型にはまった“奈良らしさ”のみならず、川島氏の眼差しを通した新しい発見や記憶が加わることで、一皿ごとに新しい驚きが生まれます。

ちなみにコース料理で使われる食材の9割は奈良県産ですが、そこをあえて強調はしていません。「お客さまに楽しんでもらうことが一番。ローカルコンシャスになりすぎず、“美味しい”を作るために楽しみながらやっていますよ」そう笑う川島氏の自由闊達な料理は、コースの最初から最後まで飽きることない心地よい音楽のように続いていきます。

敷地内にオープンしたカフェ。黄色の壁紙が基調の明るい店内。

そんな「アコルドゥ」の世界をもっと気軽に楽しんでもらえたらと、川島氏は2023年9月敷地内にカフェ「くもり時々アバロッツ。」をオープン。

お昼は20食限定でワンプレートランチ、ティータイムは奈良県産の果物を使ったケーキ、そして奈良醸造とのダブルネームで作ったオリジナルクラフトビールが並ぶなど、こちらも魅力的なラインアップ。

予約をして、ゆっくりとした奈良時間を楽しむ「アコルドゥ」。ふらりと訪れて気軽に楽しむカフェ。いずれも食いしん坊には魅力的なアドレスです。

次の奈良への旅は、「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」に泊まり、「アコルドゥ」で食事をしてみてはいかがでしょうか。時空を超えて奈良をからだ全体で感じる体験があなたを待っています。

アコルドゥ

住所:奈良県奈良市水門町70-1-3-1
電話番号:0742-77-2525
営業時間:12時~13時(ラストオーダー)、18時30分~21時30分(18時30分ラストオーダー)
休日:月曜日および不定休
URL:https://akordu.com/
ランチコース10,000円~、ディナーコース15,000円(税込み・サービス料別)要予約

くもり時々アバロッツ。

住所:奈良県奈良市水門町701-3-1
電話番号:0742-77-2525
営業時間:10時~18時30分(18時ラストオーダー)
休日:月曜日および不定休
URL:https://abarotz.com/

※駐車場について
レストランご利用の方は、店舗奥に5台ほどの駐車スペースあり。カフェ利用の方は駐車場の利用はできません。

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