 
	豊かな自然から生まれる美しい琥珀
	サントリーシングルモルトウイスキー「白州」。美味しさの秘密を求めて「森の蒸溜所」を訪ねる
国内外で高い人気を博す、サントリーのシングルモルトウイスキー「白州」。2006年に、世界的に権威のある酒類コンペティションISC(インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ)で「白州18年」が「金賞」を受賞し、以降も数々の世界的なコンペティションでの受賞を重ねる。ユネスコエコパークにも指定される環境が育んだ清らかな仕込水に加え、木製の発酵槽や多種多様なポットスチル(蒸溜釜)を使い分ける蒸溜、森に守られた環境でのウイスキーづくりが、個性の源となっているのだろうか。独自の品質の秘密を、現地取材で解き明かす。
Text:Kiyoshi Shimizu(lefthands)
Edit:Shigekazu Ohno(lefthands)
Photo:Takao Ota
 
		世界的にも稀な「森の蒸溜所」
山梨県北杜市白州町に白州蒸溜所が開業したのは、1973年のこと。サントリーが、日本で初めてとなる本格モルトウイスキーづくりに着手して50年を迎えた年のことだった。そこは標高およそ700メートル、南アルプスの麓に広がる森の中。ウイスキーづくりに欠かせない理想の水を求め、数年かけて全国を調査した結果、選ばれた土地であった。
スコットランドをはじめ、海外の蒸溜所の中でも、標高約700メートルという高地に位置すること、また広大な森の中にあることも含め、世界的に稀な蒸溜所の誕生となった。
そして、この環境こそが「白州」の個性に大きな影響を与えている。ウイスキーづくりに重要な仕込水に使われるのは、南アルプスの山々の恵みである地下天然水。標高3,000メートル級の山々に降った雨や雪が森の大地に深く染み込み、花崗岩層でゆっくりと磨かれ、20年以上の歳月をかけて、まろやかな天然水となる。適度なミネラル分を含んだ軟水が、「白州」ならではの香味の土台となるのだ。さらに、森の澄んだ空気と高い標高がもたらす厳しい気候の中でつくられるウイスキーには、力強い生命力も宿る。
 
		天然水を育む豊かな森づくり
白州の森を形成する花崗岩は、地下深くでゆっくりと冷やされて固まった岩なので風化しやすい。風化した部分は水を通すため、地下水を育む力はとても大きいが、その反面もろく、斜面崩壊が起きやすいという欠点もある。そのため、サントリーは2008年に白州蒸溜所とサントリー天然水 南アルプス白州工場の周辺合計約180ヘクタールを「サントリー天然水の森 南アルプス」として指定し、現在までに2,000ヘクタール以上の森林整備活動を行い、良質な天然水を育むための豊かな森づくりに取り組んでいる。
 
		2024年から白州蒸溜所の工場長を務めている中島俊治氏は、こう語る。
「白州蒸溜所が完成した1973年は高度経済成長期で、公害が大きな社会問題となっていました。その時代に森に蒸溜所を建設するということで、自然との共生は新たなポリシーとして重要なものでしたし、その思いは代々この蒸溜所で働く者たちに引き継がれています。森の環境保全活動も担当者だけに任せるのではなく、一人でも多くの社員が自ら森で学び、活動に活かせるようにしています。僕も森へ行きますが、さまざまな根の張り方をする樹木が共生することで土砂崩れが起こりにくくなることなど、自分の目で確かめることができます」
 
		原料は水と麦芽と酵母
 
		シングルモルトウイスキー「白州」がどのようにして生まれるのか、少し説明してみよう。
●原料
モルトウイスキーづくりは発芽した麦を乾燥させ、麦芽(モルト)をつくることから始まる。ピート(泥炭)で麦を燻すことで、スモーキーな香りの個性的な原酒が生まれる。白州蒸溜所ではさまざまなタイプの麦芽を使い分けている。また、伝統的なフロアモルティングの設備を2024年に導入して、麦芽づくりにも挑戦している。
 
		粉砕した大麦麦芽を仕込水とともに仕込槽へ入れ、麦芽中の酵素作用でデンプンを糖に変化させ、麦汁をつくる。仕込水に使われるのは、山々に降り注いだ雨雪が大地に染み込み、およそ20年かけて花崗岩層をくぐり抜けることで磨かれた南アルプスの地下天然水。適度なミネラル分を含んだ軟水が、「白州」のモルト原酒の香味の土台となる。
 
		麦汁を酵母とともに伝統的な木桶の発酵槽へ入れ、時間をかけてゆっくり発酵させる。乳酸菌の働きを促すために、伝統的な「木桶発酵」を行うことが、原酒に味わい深い風味をもたらしてくれる。こうして、アルコール度数約7パーセント、複雑な甘い香りのもろみができあがる。白州蒸溜所では、複数の酵母を使用して個性の異なるもろみをつくっているが、蒸溜所内で培養した酵母を使った発酵も2024年から始めている。
 
		●蒸溜
もろみをポットスチルへ。2回の蒸溜でもろみは凝縮され、アルコール度数約70パーセント、無色透明の原酒(ニューポット)が生まれる。白州蒸溜所では大きさや形状の異なるポットスチルを使い分けることで、多彩な香味の原酒をつくっている。
 
		ニューポットを木樽に移して貯蔵。材質や形状、前歴の異なる多様な樽を使い分け、長い時間をかけて、熟成のピークを迎えるまで長い眠りにつかせる。
今回、貯蔵庫を案内してくださった白州蒸溜所 貯蔵ブレンドグループ リーダーの丸目勇一氏によれば、白州蒸溜所では鉄製のラックに樽を何層にも並べて熟成させるラック式を採用している。貯蔵環境によって、熟成の進み具合も異なってくるため、日々、注意深く樽を見守りながら、時には樽の位置を移動させることもあるという。
 
		ウイスキーの樽はさまざまな材質、大きさのものを使い分けていて、白州蒸溜所では主にホワイトオークの材を用いた容量230リットルの「ホッグスヘッド樽」や容量180リットルの「バーレル樽」などを用いて、多様な原酒をつくり分けている。蒸溜所内には貯蔵庫が十数カ所あるので、それぞれの樽に適した貯蔵場所を見極めることも重要だという。また、樽の中の原酒は年に2パーセントほどの分量が蒸発するが、これをエンジェルズシェア(天使の分け前)と呼ぶ。それもあって、貯蔵庫内には独特のよい香りが漂う。
熟成された原酒はブレンダーがピークを見極め、テイスティングしてブレンドの配合を決定する。丸目氏によると、貯蔵担当チームは、ブレンダーが目指すレシピに合うクオリティの原酒を常につくり続けることが必要であり、それが難しくもあり、やりがいになっているという。
 
		原酒をブレンドするサントリーならではの工程
「白州」が生まれるまでの流れを紹介したが、この工程はシングルモルトウイスキーの製法としてほぼ共通している。では、「白州」や「山崎」など、サントリーのシングルモルトならではの特徴は、どこにあるのだろうか。白州蒸溜所 工場長の中島俊治氏が教えてくれた。
「一概には言えませんが、スコットランドでは、1つの蒸溜所で多くのタイプの原酒をつくり分けることは少ないですが、サントリーでは、白州蒸溜所、山崎蒸溜所それぞれで、複数のタイプの原酒をつくり分けています。例えば『白州12年』のための原酒を、追加で6年樽で寝かせておけば『白州18年』になるというものではありません。熟成年数や目指す味わいによって、原酒の選択やブレンドが異なるからです。サントリーウイスキーは、違うタイプの麦芽や酵母を使ったり、ポットスチルの形や大きさなどを変えて原酒のつくり分けを行い、多彩な原酒をブレンドすることで、まろやかで複雑な味わいにたどり着いています。それが、世界的に評価される要因にもなっているのだと思います」
 
		食事と楽しめる「白州」のハイボール
最後に、中島氏おすすめの「白州」の楽しみ方を教えてもらった。
「シングルモルトウイスキー『白州』には、若葉のようなみずみずしさと軽快で若々しい味と香りがあります。12年、18年、25年は、年数を経るごとに熟成感と甘さが増していきます。白州や12年ならハイボールがおすすめですが、ミントを添えた『白州 森香るハイボール』はさらに香りが引き立ちます。ハイボールは食事にも合います。18年、25年ならストレートかロック、あるいは少しだけ『サントリー天然水〈南アルプス〉』を足してもいいでしょう。ウイスキーは仕込水(マザーウォーター)で割るのが美味しいといわれていますから。つまみには、甘さ控え目のチョコレートやしっとり系のナッツ類などが合いますね」
 
		見学ツアー
サントリー白州蒸溜所では見学ツアーを随時受け付けています。詳しくはホームページ、もしくはお電話でご確認ください。
サントリー白州蒸溜所
      https://www.suntory.co.jp/factory/hakushu/
電話番号:0551-35-2211(電話受付時間:9時30分~16時30分)
※20歳未満の方のみでのご来場はお断りしております。
※飲酒運転・20歳未満の飲酒は法律で禁じられております。
お車・バイク(同乗者含む)・自転車を運転してご来場の方、20歳未満の方はお酒を召しあがることができません。



