
LEXUS WELLNESS
快適なドライブのために。健康を保つ予防医療は、今日の一皿から
年齢とともに、からだの変化に気づき始める人は少なくない。食事が未来の健康を左右するという考えのもと、近年注目されているのが「抗炎症食(Anti-inflammatory diet)」である。本連載では、医学博士・藤本幸弘氏に、サイレント炎症を防ぐ食の知識に加え、「守る(ディフェンシブ)」と「攻める(オフェンシブ)」という二つの栄養戦略を提案してもらった。日々の一皿を考えて、老化や疾患のリスクを減らす大きな一歩を踏み出そう。
Text:Takahiro Fujimoto
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)
食事でからだに炎症を起こしていませんか?
「抗炎症食(Anti-inflammatory diet)」という言葉をお聞きになったことはありますか?
これは近年医療や栄養に関係する業界で注目されている考え方で、加齢に伴い体内で慢性的に進行する「サイレント炎症」を抑える食事スタイルのことです。
サイレント炎症とは、自覚症状のない軽度の炎症が全身にくすぶる状態であり、老化や生活習慣病の温床ともなります。

早い方は40代序盤から、遅い方でも50代を迎えると、体調の変化に敏感になり、日々の食事が“将来の健康への投資”であることを実感される方が増えてきます。
がん、認知症、糖尿病、動脈硬化といった加齢関連疾患は、遺伝だけではなく、日々の「食」の選択によってそのリスクが大きく変わるというのが、近年の研究の共通認識です。

例えば、次のような食材が抗炎症食において特に注目されています。
〇オメガ3脂肪酸を豊富に含む青魚(サバ、イワシ、アジ)
〇抗酸化物質が多いベリー類やカカオ(高カカオチョコレート)
〇腸内環境を整える発酵食品(納豆、味噌、キムチ、ヨーグルト)
〇食物繊維が豊富な野菜、海藻、雑穀全般
また、腸内細菌の “多様性”が高いほど、免疫力や認知機能の維持に寄与することが、O'Tooleらの研究(Science. 2012;336(6080):1266-1271)で明らかにされています。
つまり、「腸の老化」を防ぐためには、発酵食品などの抗炎症食+食物繊維のセットを日常的に取り入れることが重要です。
ディフェンシブ vs オフェンシブ:食事戦略の使い分け
ここまでの知識に、「ディフェンシブ」と「オフェンシブ」という視点を導入してみましょう。
ディフェンシブ(防御的)栄養戦略とは、老化や病気の進行を「食」でブロックする考え方になります。
サイレント炎症や酸化ストレスを抑える「青魚」や「野菜中心の和食」はその代表です。50代以降、つまり人生の“後半戦”に差しかかる世代において、まず取り入れるべき基本戦略です。
一方、オフェンシブ(攻撃的)栄養戦略とは、筋肉量や脳機能など、加齢で減少する機能を「積極的に高める」食事戦略。
例えば「良質なたんぱく質(卵、豆腐、鶏肉)」や「脳機能を活性化するMCTオイルやビタミンB群」がその例です。これは、「筋肉の貯金」が必要となる70代以降を見据えて、50代のうちから始めたい取り組みです。

このように、「今のからだを守る(ディフェンシブ)」と「未来の機能を活性化し育てる(オフェンシブ)」という二つの戦略を、場面や年齢によってバランスよく組み合わせることが、50代以降の栄養設計における鍵となります。
食べすぎにこそ注意を
一方で、「とるべきもの」だけでなく、「控えるべきもの」にも意識を向ける必要があります。例えば以下のような食材は、過剰摂取に注意が必要です。
〇糖質過多の白米、菓子パン、清涼飲料水
〇トランス脂肪酸を含む加工食品やスナック菓子
〇高温調理で生じるAGEs(終末糖化産物)を多く含む揚げ物や焼き焦げた食品全般
AGEsは、たんぱく質と糖が加熱反応によって結びついた老化物質で、肌のしわやくすみだけでなく、動脈硬化やアルツハイマー型認知症のリスク上昇とも関連しています(Goldin A, et al. Circulation. 2006;114(6):597-605)。いわば“体内の錆び”のような存在です。
一皿の未来
では、今日から何をどう選べばよいのでしょうか。

青魚、発酵食品、雑穀ごはんなどを取り入れた日本に古くから伝わる「一汁三菜」の組み合わせは、ディフェンシブとオフェンシブを兼ね備えた理想的な日常食です。
加えて、「高カカオチョコを一片」「ベリー入りヨーグルトを朝食に」など、小さな習慣がやがて大きな差となって現れます。
とはいえ、毎食理想的な食卓を迎えるのは難しいことでしょう。その場合はあまり神経質になりすぎず、食べたいものを腹7分目くらいに抑えて食べることです。そして次の食事で挽回する。というのも、50代からの予防医療でもっとも大切な姿勢は、「何を食べるか」よりも「何を食べすぎないか」に意識を向けることだからです。
クルマもメンテナンスを怠れば性能を落とします。人のからだも同様で、日々の“燃料”の質を見直すことが、健康という道を走りつづける秘訣になるのです。
著者プロフィール
藤本 幸弘(ふじもと たかひろ)
東京都千代田区平河町のレーザー専門クリニック「クリニックF」院長。医学博士(東京大学)、工学博士(東海大学)、薬学博士(慶應義塾大学)、MBA(Univ. of Wales)、DBA(European City Univ.)の5つの学位を有し、医療と工学の融合によるレーザー治療の第一人者。国際学会での招待講演、著書多数。クラシック音楽愛好家としても知られ、診療に音楽を取り入れるなど、心身両面からの予防医療を実践している。