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人生を豊かにするTIPS
クラシック初心者でも自然に学べるアプリ
「Apple Music Classical」を知っていますか?

クラシック音楽のストリーミングサービス「Apple Music Classical」をご存知だろうか。エキスパートがキュレーションしたプレイリストも魅力だが、特筆すべきは深く掘り下げられたライナーノーツなどが表示され、クラシック初心者でも自然に学べることだ。2025年3月に新たに搭載された「リスニングガイド」は作品の細部に注目し、楽曲の展開に合わせてフレーズごとにリアルタイムで解説してくれる。実はこのアプリ、すでにApple Musicのサブスクリプションに加入している人なら無料で楽しめる。改めてその魅力をオーディオ・ジャーナリストの本田雅一さんに語ってもらった。

Text:Masakazu Honda
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

ショパンの前奏曲15番「雨だれ」で繰り返される“A♭”。ずっと、同じリズムでこの音は曲の終わりまで続く。なぜ彼はこの音を譜面に書きつづけたのだろう。

Apple Music Classicalの2025年3月のアップデートで導入された“リスニングガイド”が、その答えを教えてくれた。この機能は曲の流れに合わせてリアルタイムで楽曲の背景解説が表示され、今まさに鳴っている音楽の意味を教えてくれる。

2025年3月に追加された新機能「リスニングガイド」。

この“A♭”は、マヨルカ島で体調を崩していたショパンの不安、恋人への思いを抱えながら、雨音に重なる彼自身の心臓の鼓動を表現したものだという。

すなわち“雨音はショパンの調べ”ではない。そう知ったうえで改めて聴くと、雨音に思えたその音は、作曲家の心の叫びに変わる。クラシック音楽が数百年を経てなお人びとを魅了しつづける理由を、Apple Music Classicalは示してくれる。

音楽との新しい出合い方

クラシック音楽に“取っ付きが悪い”、“過去の遺物”のようなイメージを持つ人は少なくない。しかし、音楽が人を楽しませるものであることは今も昔も変わらない。

Appleがアプリ内で配信している「ストーリー・オブ・クラシカル」というシリーズコンテンツは、音楽を再発見するための音声ガイドだ。日本語版の案内役は指揮者の佐渡裕さん。

クラシック音楽専用の切り口で音楽を探索できるよう、痒いところに手が届く工夫が魅力。

バロック時代の音楽が実は当時のダンスミュージックだったこと、ベートーヴェンが聴覚を失いながらも作曲を続けた理由、現代のゲーム音楽を辿ると実はクラシック音楽に辿り着くことなど。

専門用語を使わない語りかけは、まるで音楽好きの友人が隣で解説してくれているようだ。500万曲という膨大なライブラリも、こうした案内があれば迷うことはない。むしろ、その豊かさが楽しみに変わる。

日常に溶け込む特等席

Apple Music Classicalは、最新の立体音響技術にも力を入れている。クラシック音楽を楽しむうえで重要な要素に“空間の再現”がある。楽器の音色が響くコンサートホールの音響。その空間にいることが心地よい。

クラシック音楽ならではの切り口で音楽を見つけられるほか、多様なプレイリストや楽器ごとに分類した探索なども行える。

Apple Musicの空間オーディオは、ヘッドフォンやイヤホンでその空間を再現する。電車の中でベルリン・フィルの演奏を聴くと、目を閉じれば左手前のヴァイオリン、右手前のチェロ、中央奥のティンパニと、オーケストラの配置が見えてくる。

この配置は音楽を形作る設計図の一部。作曲家は異なる楽器の響きがどのように重なり、空間に広がりをもたらすのかを意識しながら曲を書いている。それを現代の技術でより忠実に再現しようという試みだ。必要なのはiPhoneやiPadなどのAppleの端末と、同社のイヤホンまたはヘッドフォンだけだ。

“あなたの音楽的世界を広げるため”の選曲

昨日ドビュッシーを聴いていたら、今日はラヴェルの「ボレロ」が提案された。15分間同じリズムが続くだけなのに、なぜこんなにも心を掴むのか。楽器がひとつずつ加わり、音量が増し、最後の転調で訪れる衝撃。単調に見えて実は緻密に計算された音楽の建築物。

アプリからの推薦に従って、聴いてみるのも楽しい。

Apple Music Classicalの推薦は、単に似た曲を並べるのではない。音楽の新しい側面を見せ、聴く人の世界を少しずつ広げていく。それは長年クラシック音楽を愛してきた人びとが、新しい聴き手に伝えたかった音楽の奥深さそのものだ。

同じ曲でも、ベルリン・フィル、ウィーン・フィル、メトロポリタン歌劇場と、演奏者によってまったく違う表情を見せる。この聴き比べの楽しさは、クラシック音楽ならではの醍醐味だ。

生活に溶け込む音楽

生活シーンにマッチしたクラシック音楽のインターネットラジオ局も用意されている。「朝のバロック」ステーションで目覚め、「仕事中のピアノ」で集中力を高め、「夜のストリングス」で一日を終える。ここまで辿り着く頃には、クラシック音楽を聴くことは特別な時間ではなく、日常の一部へと変わっていることだろう。

こうした“ステーション”は、確かな音楽知識を持つキュレーターが丁寧に選曲したひとつの作品でもある。知らない曲が流れても、不思議と心地よいのは、信頼できる案内人がいるからだ。

Apple Musicと同じ構成なので、操作もしやすい。

Apple Music Classicalは、クラシック音楽の深い世界への新しい入り口だ。技術の力を借りて、音楽の本質的な魅力をより多くの人に届ける。それは音楽を愛する人びとの想いが、時代を超えて形になったものなのかもしれない。

明日、どんな音楽との出合いが待っているだろう。その出合いが人生を少し豊かにしてくれることを、音楽を愛するすべての人が知っている。

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