Lifestyle

音楽のあるくらし
アナログレコードブーム再燃。時を超えて輝くターンテーブルLINNの「Sondek LP12」に注目

現代の音楽リスニングは、ネットを通じたストリーミング配信中心へと劇的に移行した。音楽配信サービスの普及により音楽を楽しむ人びとの裾野が広がり、オーディオ業界は活況を呈しているが、このトレンドとは対極にあるアナログレコードへの回帰も世界的に高まりを見せている。

Text:Masakazu Honda
Edit:Misa Yamaji(B.EAT)

革新的思想から生まれた不朽の名機

ストリーミング世代にとってのアナログレコードは、無意識に流れる音楽を浴びるだけでなく、より能動的に音楽と接することで精神的な充足感を得る手段だ。

彼らはストリーミングでいつでも聴けるにもかかわらず、アナログレコードを買い求める例が少なくない。こうした若い世代に加え、過去の名演を復刻させたアナログ盤にも注目が集まりレコード店はCD店以上のにぎわいを見せている。

そんな「アナログ回帰」とレコード文化の普遍性を象徴するのが、半世紀以上にわたり音楽愛好家から崇敬を集めつづけているスコットランドのオーディオメーカーLINNのレコードプレーヤー「Sondek LP12」だ。

アナログレコードの温かみある音色はデジタル全盛時代においても独自の魅力を放つ。

1970年代初頭、英国のオーディオ界では「スピーカーこそが音質を決定する」という考え方が主流だった。

その定説に挑んだのがLINNの若きエンジニア、アイヴァー・ティーフェンブルンである。彼は「ターンテーブルこそが音質にもっとも重要な影響を及ぼす心臓部」と考え、画期的な構造を持つターンテーブルを自主製作、彼の革新的な哲学が形となったのが1973年の「Sondek LP12」である。

50年以上前に作られた発売当時の「Sondek LP12」。以来、アナログレコードプレーヤーの象徴でありつづけてきた。

LP12が奏でるいきいきとした音楽表現は、スピーカーの違いを些細なものに感じさせるほどの圧倒的な魅力を持ち、世界中でレコード再生のスタンダードとしての地位を確立した。

半世紀前に誕生したLP12だが、その外観と基本構造は今日まで大きく変わっていない。サスペンションによってフローティング構造となっているサブシャーシでトーンアームの取り付け台と高精度な単一点支持の軸受を結合する基本設計は、1972年の登場以来ほぼそのまま受け継がれている。木製フレーム(プリンス)に包まれたクラシカルなスタイルは、オーディオの目利きにとって揺るぎない価値の象徴だ。

50年以上にわたってアナログプレーヤーの頂点に君臨しつづけるLP12の設計思想は、シンプルかつ機能美に満ちた「イームズチェア」にも喩えられるほど、半世紀を経た今なお変わらぬ価値を保ちつづけている。

LP12の普遍性を支えるもの

LP12が高音質である核心は「トーンアームの取り付け台と軸受の位置関係を一定に保つ」ことと「高精度な単一点支持の軸受でターンテーブル全体を支える」ことにある。

繊細な針先がレコード溝を読み取る精度を高めたLINNの技術哲学。それこそが、LP12の変わらぬ価値を決定付けている。

この技術を磨き込むため、LP12はモジュールごとにアップグレードできる設計とされている。50年経過した現在でも各部モジュールをアップグレードすることで最新モデルと同等の音質に引き上げることが可能だ。それは初代LP12であっても同じ。1973年のLP12を、最新技術を搭載した最高峰モデルにまでパフォーマンスを引き上げることもできるのだ。

最新のエントリーモデル「Majik LP12」(写真)は72万6,000円からだが、最上位の「Klimax LP12」は450〜500万円。さらに2023年発売の50周年記念特別モデル「Sondek LP12-50」は990万円(世界250台限定)。オーダーもできる。
※限定品は在庫がなくなり次第終了となります。

最新の記念モデルは元Apple社チーフデザイナーのジョナサン・アイブとのコラボレーションによるものだが、ここで採用された超高密度木材製フレーム(プリンス)「Bedrok」もまた、アップグレード用に提供されており、すべてのLP12はこの史上最高のアナログ再生クオリティーへと引き上げることが可能だ。

デジタル時代に息づく普遍の価値

デジタル全盛の時代になぜレコード再生に投資する人びとが絶えないのか。それは単なるノスタルジーではない。20世紀の貴重な音源の多くがレコードでしか聴けないという現実がある。

往年の名指揮者・名演奏家による歴史的名演にはデジタル化されていないものも多く、レコード棚を探索すれば、デジタルでは手に入らない稀少な演奏や作品と出合える。

ウォルナットフィニッシュの「Klimax LP12」。さまざまなフィニッシュや搭載するモジュールにより、幅広いモデル構成が可能となる。

また、アナログレコードというメディア体験そのものの豊かさも魅力だ。

アナログならではのなめらかで美しい音の質感、大判ジャケットを手にとって眺める楽しみはCDや配信にはないアート鑑賞的な喜びをもたらす。そして何より、ターンテーブルにレコードを載せ、針を落とす一連の儀式には独特の情感が宿る。再生前の静寂と微かな針音、そこから立ち上がる豊穣な響き――その瞬間ごとに音楽と真摯に向き合う充実感を味わえるのだ。

そんな時代にLINNは、LP12を史上最長寿のオーディオコンポーネントとして製造しつづける一方で、50年前の成功体験に束縛はされていない。

テクノロジーや時代が変化しても色褪せない設計思想、音楽への情熱、そして使い手とともに年輪を重ねるプロダクトとしての愛着価値――LINN「Sondek LP12」は単なるオーディオ機器の枠を超え、豊かな音楽体験と格調高いライフスタイルを約束する存在でありつづけている。

LINN

公式HP:http://linn.jp/

Spring 2025

レクサスカード会員のためのハイエンドマガジン「moment」のデジタルブック。
ワンランク上のライフスタイルをお届けします。