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Autumn 2024号 流用記事

日々のくらしに輝ける瞬間(moment)を与えてくれるモノやコト
能登・金沢に根付く、日本が誇る工芸を知る旅へ

漆芸・輪島塗を筆頭に、輪島や金沢には日本が誇る工芸が多く残る。しかし今、震災により輪島塗が継続の危機にあるという。震災から7カ月たっても未だ復興の目途が立たない中、未来へつなぐべき工芸・輪島塗についての現状を取材した。また、金沢を訪ねたら宿泊したい、加賀藩からの歴史を感じる工芸に浸れるアートホテルも紹介する。

Photo:Naoto Shiga
Edit&Text:Misa Yamaji(B.EAT)

左:塗師・赤木明登作「地久椀」。江戸時代に作られていた飯椀の形を写している。深い色と吸い付くような触感に漆の美しさを感じる。
右:蒔絵師・坂口政昭が図柄を手がけた「棗」。平蒔絵、研ぎ蒔絵、螺鈿と、精緻な技術が小さな世界に凝縮されている。

「輪島塗」はなぜ特別なのか

日本人の生活や文化に古くから登場していた漆器。正月などハレの日の食卓に欠かせない器でもある。中でも、輪島塗は日本を代表する高級漆器として、世界にその名が知られている。そんな日本が誇る工芸品・輪島塗が今、危機的な状況にある。

「もともと産業の構造自体にひずみがあったところに、震災が起きて、大きく根元から崩れてしまった気がします」と語るのは、世界からも注目を集める人気の塗師・赤木明登氏だ。塗師とは文字どおり“漆を木地に塗る”人のこと。加えてデザインを考え、木地師たちにイメージを伝えて器を作る総合プロデューサーでもある。赤木氏は現在6人の職人を抱えて輪島塗の器を制作している。

取材した2024年8月4日の輪島の様子。焼け野原になった場所は時がとまっていた。

「輪島塗は分業制。僕らの仕事はひとりではできません。木材から型をとる荒型師、荒型から器の素地を作る木地師がいて、木地に漆を塗るのが塗師の仕事。またひと言で木地といっても、指物、挽物、刳物、曲物と種類ごとに専門の職人がいます。震災前の段階ですでに各職人の数が激減し、技術継承の危機にありました。それが震災をきっかけに廃業や引っ越しを決めた人も多く、先の見通しはまったく立ちません」と語る。

そもそも日本全国に漆器の産地はいくつもあるが、輪島塗を特別たらしめているのがこの分業制にある。

その工程は大きく分けて木地制作、きゅう漆(漆を木地に塗ること)、加飾に分類されるが、ひとつの器が完成するまでに120近い手数がかかるのだ。その細かい工程をそれぞれ熟した職人が手がけることで、研ぎ澄まされた美しさを放つ。輪島塗を表現する「堅牢優美」という言葉があるが、この“優美”さが生まれるのは、こうした生産工程があるからだ。

漆の上塗りは、チリひとつ付かないよう、“つなぎ”を着用し細心の注意を払って行われる。

一方“堅牢さ”は、輪島塗の肝でもある“塗り”の工程から生まれる。欠かせないのは、「地の粉」の存在と「布着せ」という工程だ。「地の粉」は能登半島で多く産出される珪藻土の一種で、この土を蒸して粉砕し、漆に混ぜて下塗りすることで強度や耐熱性が増す。この「地の粉」が入っていなければ輪島塗と名乗ることができない。また「布着せ」という工程は、塗りの作業の一部で、器の木地の壊れやすい部分に布を漆で貼り付けることで強度を高めること。これらの過程を含む、“塗り”の工程は20近くにおよぶ。こうして職人たちが時間と労力をかけて生み出した美しさこそが“塗りの輪島”と異名を取る、輪島塗の特徴でもある。つまり、輪島塗は、輪島という大地と、伝統を受け継ぐ職人がいなければ成り立たない。しかし、今回の震災でその根幹が崩れてしまったのだ。実際、取材班が訪れた8月上旬でも輪島には全壊・半壊した建物がそのまま残り、人の気配も少ない。震災時から時が止まったままのようだった。

職人が廃業を決心してしまう理由として、生活や仕事をする場所がない、ということに加え、従来の待遇の低さがあげられるという。一般的に下支えをしている木地師は特に労働時間の割に賃金が安い。生活のために転職を考える職人もいるのだ。

赤木明登氏作の「地久椀」。赤は漆の基本の色。「生命の象徴の色でもあります」と赤木氏。

職人の精神性に美しい形がある

「でも、職人こそかけがえのない存在なのです。彼らのからだの中に“いい形”がある。例えば、僕が木地をお願いしていた86歳の木地師・池下満雄さん。彼の中に息づく伝統が、長年の経験と重なり美しい形となって木地に滲み出てくる。僕はそれを引き出し、器にしています。だから被災した池下さんが“職人を続けたい”と言ったときに、池下さんの工房再建を心に決めました。彼の木地を途絶えさせたくないという思いと同時に輪島塗の木地師の仕事に光を当てたかったからです」。

輪島塗の伝統を守り、“用の美” を備えた赤木明登氏の器は国内外で人気が高い。

震災時、赤木氏の工房と自宅は幸いにも被災を免れた。抱えていた職人たちの家は全壊してしまったけれど、比較的早くに金沢の2次避難先が見つかり、彼らが働く仮工房も開設できた。そこでSNSで池下氏の工房再建のための寄付を募り、知り合いの岡山の工務店の協力を得て、潰れた作業場を引き起こす工事に着手した。3月末には工房を再建し、4月から池下さんは仕事を再開することができた。「輪島で最初に復興した職人の工房です。僕はこの工房を輪島塗復興の灯にしたいと思いました」。

自身の弟子の中から希望した2人の若者を、池下氏のもとへ出し、技術の継承にも乗り出した。しかし、7月に池下氏は帰らぬ人となってしまう。

「『私は、ここで仕事ができるのが、楽しい』と何度も言ってくれたのが救いです」。さっきまで池下さんがいたかのような作業場を見つめ、赤木氏は呟いた。「これからはかつて角偉三郎さんの椀を挽いていた木地師が来て弟子を指導してくれることになりました。池下さんに習ったのは2カ月ほどですが、一人前になるまで支援していくつもりです」。

「二辺地」という下塗りをしている作業。上塗り前までに「三辺地」まで下塗りを重ねる。

原点が輪島塗を救う

赤木氏自身は4月には工房を再開し、器の制作に精力的に取り組んでいる。取材時は8月末の30周年記念の展覧会のために500点近い器を仕上げているところだった。しかし、手元にある木地がなくなれば塗るものはなくなってしまう。未曾有の災害を経て、輪島塗の根幹でもある分業制が崩壊危機にある今、輪島塗の復活にはなにが必要なのだろうか?

そんな問いに、少し考えてから「私は原点に戻ること、ではないかと考えています」と赤木氏は答える。「漆器とは、そもそも生命力の再生を願う人間の精神性を支える道具でした。神様や先祖に感謝をし、漆器を扱っていたのです。私は漆器を作る漆や木などの完璧さを損なうことなく道具に表したい。そこに敬意を持つということです。こうした精神性を話すと難しく感じるかもしれませんが、実際個展では、幅広い年齢層の方が僕の器を求めてくださる。つまり、精神性から生まれた美しさは声高に言わなくても伝わっていると思うのです。本質的なものをただ作れば、必要とされる。それが一番重要なのではないでしょうか」

赤木氏が木地師の技術を継承する場所として震災後すぐに修復した池下氏の工房。

輪島塗の分業制が崩壊の危機。
今、考えるべきは
職人がどう生きていくのかということ

輪島の蒔絵師として思うこと

現在、輪島市は、被災した輪島塗の職人たちのために仕事ができる仮工房の設置を順次進めている。そんな仮工房の入室を心待ちにしているのが、蒔絵師の坂口政昭氏だ。

坂口氏は震災で自宅兼工房が全壊した。現在は4畳半と5畳、キッチンのある仮設住宅で家族4人でくらす。
「仮設工房に入れればすぐに仕事をしたい。でも漆を扱う仕事なので仮工房の環境が合わずに見送ることも。難しいですね」とため息をつく。

蒔絵師・坂口政昭氏。輪島市生まれ。第八回日工会展 京都府知事賞受賞ほか、さまざまな受賞歴を持つ。

蒔絵師とは、塗師が仕上げた漆の器や板に、金粉や銀粉、螺鈿を使い、漆で絵を描く職人のことを指す。

もともとシンプルな輪島塗が加飾され華やかになったのは明治から大正時代のこと。大きな料亭が各地に誕生し、彼らが注文時、輪島塗に豪華に加飾してほしいと希望したことが理由だ。そこから最高の塗りに豪華な蒔絵をほどこした高額な輪島塗が誕生していく。こうした需要は高度経済成長期に拡大。バブル期は料亭ブームで飛ぶように売れ、一般人もハレの日の漆器として輪島塗の器を求めた。しかし、バブル崩壊後から輪島塗の売上数は激減。坂口氏も、赤木氏同様こうした産業衰退に震災前から危機を感じていたと話す。

坂口氏が蒔絵を描いた棗。「ぴったりとした合口でこの塗の職人の技術の高さがわかります」。
坂口氏作蒔絵をつけたシーグラスネックレス。漆器以外の作品で蒔絵の技術を知ってもらおうと挑戦している。

「昔は塗師屋が職人たちをまとめて、全国で注文をとってきて彼らを食べさせていました。盆と暮が〆で、それまでにこれだけの器を作りましょう、と生産もコントロールしていたんですね。ですから、顧客のリクエストに合う器をいわば“おあつらえ”で丁寧に時間をかけて制作していました。それが高度経済成長期を過ぎたあたりから百貨店などで大量に販売を始めた。輪島塗は分業制で時間がかかるのに、1カ月で仕上げなければならない無理な注文も入る。その辺りから昔のやり方と現代の体制にひずみが出てきていました」。さらに、職人の徒弟制度が、現代に合わなくなっていることも指摘する。

「私らの頃は、徒弟制度がありました。職人になるにはまず、師匠の元で4年間、ほぼ無給で技術を学びます。年季明けには「御礼奉公」でさらに1年働くので実質5年かな。途中でやめたら“半端者”としてほかでも雇ってくれません。厳しいですが、そうしたシステムが高い技術を持つ職人を育てていたことは確かです。しかし今の若い人が魅力を感じる制度ではないですよね」。

坂口氏は今、警備の仕事をしながら生計を立てている。それでも環境が整えば蒔絵師として仕事をしたいと話す。「やっぱり、蒔絵が好きですから。今の時代でも生きていける職人のあり方を、業界全体で模索しないといけないと思っています」。

金沢の工芸を知る美術館のようなホテル

ハイアット セントリック 金沢

箔デザイナー、高岡愛氏が手がけた金沢金箔のパネルと、金沢の古民家によく見られるベンガラ色の格子「木虫籠」の壁が印象的なロビー。
加賀藩から受け継いだ工芸に耽美する

江戸時代からの文化が今も色濃く残る金沢。その理由は戦火を逃れたこともあるが、1583年より金沢を治めた加賀藩前田家による功績が大きい。文化事業に力を入れていた加賀藩は、能や茶の湯などの文化に触れることを武士のみならず商人や職人たちにも奨励していた。それらの文化が浸透すると同時に、支える工芸もまた発展していく。金沢に伝統工芸が多く残るのは、こうした理由からだ。

2020年8月にオープンした「ハイアット セントリック 金沢」はそんな江戸時代に生まれ今につながる工芸やアートに触れたい人にはぴったりのホテルである。所蔵品はなんと100点以上。古いものや人間国宝の作品から、注目の現代作家のアートまで並び、歴史を現在進行形で紡ぐ石川県の“美”に触れることができる。中には職人たちの“作業過程”をアートに仕立てたユニークなディスプレイも。例えば漆器に使う漆は塗る前に和紙で漉すが、使用後に捨てられる色付きの和紙を張り合わせパネルに。加賀獅子頭は、本体を作る前に小さいプロトタイプを作るが、それをアートとして展示するといった具合だ。

町工場の工具や使用されなくなった器具などに金箔を貼ったオブジェがゲストを迎える。
獅子頭の試し彫をディスプレイ。

館内のインテリアデザインを担当し、アートをキュレーションしたのは、東京に拠点を置く「ボンドデザインスタジオ」。彼らは、金沢という街から滲み出る歴史的な物語と連綿と続くアーティストや職人たちの美意識、そして“今”の金沢を見事に融合させてホテル内に表現した。いずれのアートも手仕事の温もりが感じられ、館内は洗練されていながらも長く滞在したくなる心地よさにあふれている。

「ハイアット セントリック」のブランド定義は、“その街のもっともエキサイティングな魅力発信源への玄関口”になること。加賀藩の工芸を一気に知ることができるギャラリーのようなホテルは、金沢の文化を凝縮し、その魅力を発信しているといえるだろう。宿泊してアートをじっくり鑑賞したら、気になる工芸を探しに街に繰り出したくなるはずだ。

左:九谷焼のルームサイン。
右:客室内のベッドボードは古民家の建具に和紙を貼ってリメイク。
色彩美を感じる十一代大樋長左衛門の器。
エレベーターホールには古地図を下刷りし、手染めにした加賀友禅が飾られている。

ハイアット セントリック 金沢

住所:石川県金沢市広岡1-5-2
アクセス:小松空港から車で約35分。JR「金沢駅」から徒歩約2分。
駐車場:なし

ハイアット セントリック 金沢のご予約は、トヨタファイナンス トラベルデスクへ

LEXUS LUXURY HOTEL COLLECTIONでは、お客さまに最適なホテル選びをご提供させていただくため、トヨタファイナンス トラベルデスクにてお電話での手配を承っております。
世界中にある約1,500以上のホテルごとにさまざまな特典がご利用いただけます。
「ホテル選びに迷っている」「金額や特典のみでも確認したい」など、お気軽にお問い合わせください。

ご利用いただけるお客さま:レクサスカード会員さま レクサスの自動車クレジットをご契約中のお客さま
ご利用予定日の10日前までにお問い合わせください。
トヨタファイナンス トラベルデスク 電話番号:0800-700-8160(9時~17時/日祝・年末年始除く)
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*入湯税・宿泊税がかかる場合、別途現地にてお支払いください。
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