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『moment』のカバーフォトグラファーが指南
プロの写真家が教える「スマホ」撮影術。ドライブ先で愛車と景色を美しく撮るための5つのノウハウとは

いつでもどこでも、すぐに写真を撮ってシェアできる手軽さが魅力のスマートフォン。でも、『moment』の表紙から特集までを撮るプロの写真家が、ケース・バイ・ケースでノウハウを指南してくれるこの記事を読めば、次のドライブ旅で撮る愛車と景色の写真が大きく見違えること間違いなし。さっそく試してみないか。

Photo:Takao Ota
Text:Shigekazu Ohno(lefthands)

スマートフォンの強みを活かして、カメラに負けない写真を撮る

自慢の愛車に乗って、観光スポットや絶景を巡るドライブ旅。その楽しい思い出を写真に撮って、家族や友人、さらにもっと多くの人にシェアしたいと思うのは、誰しも同じことだろう。

高性能な一眼レフやミラーレスカメラを使って撮影する「写真趣味」もあるが、「最新のスマートフォンの撮影機能や画像修正機能を駆使すれば、写真のクオリティーは本格的なカメラで撮ったものに勝るとも劣らない」とは、実際に多くの写真家が口にしていること。こだわりのカメラやレンズで撮る楽しみや、あえてフィルムで撮るといった“味わい”の側面などを除けば、スマートフォンはむしろ「さっと取り出して、さっと撮って、さっと送ったりSNSにアップできる」という優位性が魅力ではないか。

今回の企画に協力してくれた写真家の太田隆生氏も、そう考える一人。『moment』の表紙や特集を撮る際には、無論、プロ用の機材を駆使して撮影に臨むが、プライベートでは感性の赴くままに、スマートフォンによる手軽な撮影を楽しんでいる。「どう撮ろうか(レンズや機材の選択を含めて)を考える前に、直感で“美しい”とか“面白い”と思った瞬間に撮れるのが、スマートフォンの魅力ですから」

とはいえ、太田氏がスマートフォンで撮る写真は、やはり一般人のものとは違う。ほかの人は気がつかないような、その一瞬、その一隅を捉えつつ、永遠の美しさとしてとどめることを可能とする感性と技量がベースにあるからだ。

今回、“すぐにでも真似できるような”ノウハウを教わるべく、被写体としてのLEXUS RZ450eに乗って、太田氏と向かった先は琵琶湖と大阪。ここから、実際に太田氏がスマートフォンで撮影した写真を例にとって、具体的に5つのポイントとして教示していこう。

スマートフォン撮影/5つのノウハウ
tip 1. 水平を取る

写真を撮る際の基本中の基本は「水平を取る」こと。水平線が傾いていると、見ているこちら側の首も、なんだか傾いてしまう。水平線は平行だからこそ、どこまでもつづくような広大無辺さが表現される。逆に、あえて傾けることで動きのダイナミズムやライブ感を表現する手法もあるが、風景を撮る際はこの注意点を思い出すだけで、いわゆる“絵葉書のような”気持ちのよい写真が撮れるようになるはずだ。

(左)NG例。水平線が斜めに傾いている。
(右)OK例。水平が取れていると、見ていて気持ちがいい。また、水面を撮る際は、このように逆光で撮ると、きらきら光る印象的な写真となる。
(左)NG例。水平線が傾いていて、見ていて落ち着かない。
(右)OK例。夕暮れどきの湖畔にたたずむ心地よさが、現地の空気感とともに伝わってくるようだ。

tip 2. 見せたい部分がどこかを考えてフレーミング&トリミングする

「印象に残る写真とは、要素を削ぎ落とした写真」と太田氏は語る。この写真は何を見せたくて、何を伝えたくて撮るのかを考えながらスマートフォンの画面を覗くと、それ以外の「不要あるいは邪魔な要素」が浮き彫りになってくるという。撮るときに、そうしたものを排除して画角を決めるのが「フレーミング」。撮ったあとに行うのが「トリミング」。この2つの技を駆使できるようになると、写真の見栄えがまるで変わってくる。

(左)NG例。せっかくの大阪城の威容が、足元にいる観光客や、近代的なガラスのエレベーター塔によって損なわれて見える。
(右)OK例。足元にいる観光客たちの頭上の高さ、そして左側のエレベーター塔が見切れない画角でフレーミング(あるいはトリミング)することで、堂々たる威容が伝わる写真に。
(左)NG例。琵琶湖畔で撮ったLEXUS RZ450eだが、後ろに写った注意書きの看板や茂みがノイズとなっている。また、主役がクルマなのか湖の景色なのか、どっちつかずで中途半端な印象も拭えない。
(右)OK例。不要な看板や茂みは、見えないようにぐっと寄って撮る。あるいは、自分の立ち位置を変えて、被写体となる車体の後ろに隠すという手も。さらに、腰を落として低い角度から撮ることで、クルマがよりダイナミックに見えるように。

tip 3. 目に見えるものをグラフィカルに切り取る

フレーミングやトリミングのレベルよりも、さらに思い切って自分の心の琴線に触れた要素に迫ってみよう。心の赴くままに近寄って、気に入った部分をグラフィカルに切り取ってみるのだ。きっとこれまで見たことのないような、モダンでアーティスティックな写真と出合えるはずだ。

先ほどの大阪城も、ダイナミックに切り取ってみると、斬新な印象の写真に。
LEXUS RZ450eのヘッドライトをグラフィカルに切り取った写真。「車体の線や面が立体的に交差する点に着目すると、これまで見たことのないようなクールな印象の写真が撮れるはず」

tip 4. 縦・横・正方形の3バリエーションで撮り分けてみる

プロとアマチュアの違いは、撮る枚数にもある。確かな眼と技術をもつ写真家ですら、角度を変え、レンズを変え、露出を変え、シャッタースピードを変え、寄り引きを変え、縦・横の版形違いのバリエーションを撮影する。その中の「ベストな1枚」を選ぶためにだ。『moment』の特集を担当する太田氏は、毎号のロケで500枚を超えるカットを撮影している。その中から絞られ、選ばれ、誌面に使用されるのは、わずか10パーセント程度にとどまる。

かつてのフィルム時代であれば「もったいない」と思われる話かもしれないが、スマートフォンも含めてデジタル写真であれば、実はこれも「いい写真」を残すための秘訣となる。同じような写真ばかりでいたずらに枚数を撮っても意味はないが、「これを撮る」と決めたら、縦・横・正方形の3バリエーションを撮り分けてみよう。バランスや重心が変わり、見たときの印象がそれぞれ変わってくる。

「『数打ちゃ当たる』ではありませんが、まずは選択肢を多くもつことを意識すると、その中から『奇跡の1枚』が生まれるかもしれません。どれを使うかを見定めたら、それから使わないカットを消せばいいのです」

縦判で撮った琵琶湖とLEXUS RZ450eの写真。空の高さが心地よい印象を与える。
横判で撮った琵琶湖とLEXUS RZ450eの写真。より広く、開放感のある印象を与える。
正方形で撮った琵琶湖とLEXUS RZ450eの写真。グラフィカルでモダンな印象を与える。「正方形の写真を撮るときは、四隅を消した真円、つまり望遠鏡で覗いたときのような丸い絵をイメージすると、バランスが取りやすいはず」

tip 5. 露出違いで撮り分ける

同じ立ち位置から、同じ被写体を撮る場合でも、露出をどこに合わせるかで写真の印象は大きく変わってくる。この場合、要は「何を見せたいか」ではなく「どう見せたいか」という話だ。

「スマートフォンの場合、露出を合わせたい対象物を指先でタッチするだけで瞬時に調整できるので、先に頭で考えるより、まずは被写体に露出を合わせたものと、背景となる景色に露出を合わせたものの2カットを撮ってみるといいでしょう」

(左)夕暮れどきの琵琶湖で撮ったLEXUS RZ450eの写真。露出は背景に合わせている。夕陽を反射した水面と手前の草地が美しく表現されている一方で、クルマはシルエットのような見え方となっている。
(右)同じとき、同じ場所で撮ったLEXUS RZ450eの写真。露出は車体に合わせている。クルマがはっきりと見える一方で、夕陽と湖は光がとんだ状態で写っている。肉眼で見たときより明るく写るが、この時間ならではの気持ちのよさが表現されている。
夕陽がレンズに入りこむことで画面上に光が散乱し、いい意味での臨場感が生まれる現象を「フレア」と呼ぶ。「光や空気感の心地よさを表現する場合、あえてフレアを楽しむ撮り方もおすすめします」

ここまで教えてもらった5つのノウハウを理解し、駆使すれば、次に撮る写真はきっと目を見張るほど見違えるはず。思い出に残り、かつたくさんの美しい写真を残すドライブ旅に、愛車に乗って出てみないか。


太田隆生氏

石川県能登町生まれ。1997年よりフリーランスとなり、『Casa BRUTUS』『CREA』『ENGINE』『Esquire JAPAN』『Forbes JAPAN』『GOETHE』『Richesse』などの雑誌をはじめ、さまざまなジャンルの広告、『LEXUS NEWS』をはじめとするWEBマガジンでも幅広く活躍。『moment』の表紙や特集撮影も数多く手がけている。

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