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RC F “Performance package”
「LEXUS RC F “Performance package”」の魅力はコンマ1秒を削ることではない。走ることで深まるクルマとの絆と日常領域での探究

自動車業界において「モデル末期」というとクルマとしての評価が下がっているかのように認識される向きもあるが、ことLEXUS RC Fにそんな意味は当てはまらない。2014年に登場して以来、デザイン面、機能面、運動性能、快適性能などさまざまな領域における改良で最新化を図られていることはもちろんのこと、専用チューニングの施された5L V8エンジンというパワートレーンが大きな要素として存在している。しかもその希少価値は年月を経るごとに高まりつづけている。そんなRC Fの魅力をもっとも高められた「RC F “Performance package”」にモータージャーナリストの渡辺敏史氏が試乗し、LEXUSがRC Fをラインアップしつづける理由と特異な個性を探った。

Text:Toshifumi Watanabe
Photo:Masayuki Inoue

大排気量マルチシリンダーエンジンを搭載するRC Fの希少価値は高まるばかり

現在、LEXUSのラインアップにはLCとRC、ふたつの2ドアクーペがある。

世界的には縮小傾向にあり、ビジネス的にも難しいカテゴリーながら、これを作りつづけることが自動車メーカーとしての誇りであり、プレミアムブランドとしての矜持であるという思いが作り手の背中を押しているのだろう。

車格やデザインからしてスペシャリティなLCに比べると、RCはデイリーカーに求められる柔軟性や実用性を兼ね備えた、生活との距離感が近い2ドアクーペになる。と、そのRCの中でもちょっと異端なグレードがこの「F」というわけだ。

台形を描くように配列された4本のエキゾーストエンドが、LEXUSの“Fモデル”であることを主張する。

RC FはLEXUSのすべてのモデルの中で、もっとも高いスポーティネスを備えたクルマだ。Fシリーズのプロダクトコンセプトが「サーキットでのスポーツ走行を楽しむだけでなく、その前後の行程も快適に移動できること」というだけあって、日常性を犠牲にしない仕立てながら、エンジンや足回りのセットアップのみならず、制動系や冷却系といったところまで徹底的に鍛え上げられている。

搭載するエンジンはLC500と同じ2UR-GSE型。LEXUSのために作られた5L V8は過給器を持たない自然吸気で、絶対的な出力はライバルにおよばない。しかし、低回転域からのアクセルペダル操作に対する応答のよさや、7,000r.p.m.オーバーまで軽々と吹け上がる爽快感、それにともなうエンジンサウンドの心地よさなど、ならではの美点はいくつも挙げられる。

スポーツエンジンの分野でも、主要諸元における燃費性能を追求すべく排気量そのものを落として気筒数を減らす一方で、過給器によってパワーやトルクを盛り付けるようなダウンサイジングのトレンドが浸透する中、長らくスポーツカーのシンボルでもあった大排気量のマルチシリンダーエンジンは、今やごく一部のクルマ好きのために供される贅沢なものとなってしまっている。

LEXUSが現在もなお2UR-GSE型を搭載できる背景は、他社に先駆けてパワートレーンの電動化を進め、ラインアップ全体で環境性能を高めてきた、そのアドバンテージによるところが大きい。が、それも永続的ではないわけで、このエンジンを手に入れられる時間も限られたものになりつつあるのかもしれない。

自然吸気らしい回転の高まりを存分に味わうことができる、481PS/535N・m を発生させる5L V8エンジン。

デビューから約10年、進化しつづけてきたRC F

グレード展開はベースモデルの「RC F」と、ボンネットフードやルーフパネルをカーボン製に置き換えた「RC F “Carbon Exterior package”」、さらなるカーボンパーツの装着による空力性能強化やチタン4連エキゾーストマフラーの採用などにより50kgの軽量化を果たした「RC F “Performance package”」の、3つのバリエーションが用意されている。

取材車は走行性能も外観ももっとも過激な仕立ての“Performance package”だが、ベースモデルのRC FであればほかのRCシリーズとの見た目の差異はボンネットやエアロパーツなどの一部に留められており、必要以上に目立つこともない。一方で大径のブレーキや縦方向に重なる4本出しのエキゾーストエンドなど、その意味を知る人には一目置かれることになるだろう。

スポーツモデルらしいフェンダーアーチを持つRC Fだが、ボディサイズは標準モデルのRCとほぼ同じで街中でも扱いやすい。

RC Fを含むRCシリーズは、登場から間もなく10年目を迎えるロングランのモデルだ。エクステリアデザインはその間に1度、大きな変更を受けているが、装備や仕様は毎年のように手が加えられている。

直近では2022年の冬に、ホイール締結のハブボルト化や前後ボディ剛性バランスの見直し、ダンパーや電動パワーステアリング制御特性の最適化、先進運転支援システムの性能強化やパーキングブレーキの電動化、マルチメディアシステムの更新などその内容は年次改良とは思えないほど多岐にわたり、かつ細密だ。

それでもRC Fの内装のしつらえはさすがに齢を感じさせるところもある。インターフェースは大胆な変革を遂げて最新のモデルと変わらない機能性であるものの、操作系統までのフォローはできていない。ただ一方で、それをむしろ好ましく思う人がいることも容易に想像できる。

仕事柄、多くのクルマに触れる機会のある自分からみても、オーディオやボリュームのコントロールノブ、エアコン操作・・・と、それぞれわかりやすい位置に触感のあるボタン類が並べられている方がストレスなく直感的に扱えることは間違いない。

使えば使うほどに慣れ親しんでいく物理ボタンの多さは、最新モデルにはないRCシリーズならではの魅力のひとつ。

日常と非日常の領域をつなぐRC Fのドライビングテイスト

2022年冬に施された年次改良で、RC Fの走りは味わいがさらに深いものになっている。今回の試乗でもそれを実感させられた。

もっともサーキット走行に適したハードなセットアップが施された“Performance package”であっても、そのマナーは低速域からきちんと整えられていて、路肩の段差や橋脚の継ぎ目など、ガツンとショックが入ってくるような場面でも乗り心地に不快さを感じることはほぼない。クルマの動きを把握するための路面情報は伝えてくるが、不快なノイズはしっかり取り除いている、いかにも足回りに気を配った高性能スポーツカーらしい動き方だと思う。

コーナーのどこのラインをトレースすると気持ちがよいか探ることも、RC Fをドライビングすることの楽しさのひとつ。

RC Fはノーマルでもサーキットを本気で走り込めるクルマだ。懐深いハンドリングは手練れの要求にもきっちり応えてくれる。でも、コンマ1秒のタイムを削ってライバルと争うことを目的とはしていない。誤解を恐れずにいえば、“自己満足のために走り込みたくなるクルマ”という表現になるだろうか。

まずもって、自然吸気の5L V8を思い切りぶん回して走らせること自体が、クローズドコースでの走行という限られた機会となっている。多分に趣味性に関わる領域だが、それはクルマ好きにとっても特別な時間だ。

RC Fはその「特別な時間」と「平時」とをまったくストレスなくつなぐことが最大のセリングポイントともいえるだろう。普段づかいにストレスなく応えてくれる一方で、傍らにはいつでもスポーツドライビングへの誘いがある。動力源にまつわる紆余曲折が甚だしい今だからこそ、純粋にクルマとの絆を深めたい、そんな熱意に応えるLEXUSといえば、RC Fが筆頭の銘柄となることは間違いない。

渡辺敏史
Toshifumi Watanabe

二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず、独自の視点で多くのメディアで活躍。緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。

LEXUS RC F “Performance package” 主要諸元

・全長×全幅×全高:4,710×1,845×1,390mm
・ホイールベース:2,730mm
・車両重量:1,720kg
・エンジン:2UR-GSE・V8 DOHC
・総排気量:4,968cc
・最高出力:354kW(481PS)/7,100r.p.m.
・最大トルク:535N・m/4,800r.p.m.
・トランスミッション:8速AT
・駆動方式:FR
・燃料・タンク容量:プレミアム・66L
・WLTCモード燃費:8.5km/L
・タイヤサイズ:前255/35RZ19、後275/35RZ19
・車両価格(税込み):1,455万円

RC350 “F SPORT”フォトシューティング@千葉・茨城

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