moment 2018年 5/6月号
レクサスを語る

LEXUS NX
“完成”の域に達した、
中核のSUV

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

マイナーチェンジとは思えないワイルドな変貌、 ホールド感が誘うタイトな乗り心地。
SUV三兄弟の末っ子が魅せる、アグレッシブな走りの真髄を。

より大人の、上質でスポーティな走りへ

百花繚乱のSUV市場を席巻。世界で愛されるモデルに

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セダンの快適性とワゴンの利便性、そしてクーペの華を併せもつパッケージとしてSUVというものが人気を博するようになったのは1990年代の後半以降。車の歴史に照らしてみればそう古くはない話である。

もちろん、それ以前にも似たような形態の車はあるにはあったが、多くはヘビーデューティな四駆車がベースで、上質とも高効率とも言い難いものだった。そこに乗用車のアーキテクチャーを用いて、まったく新しいコンセプトの車として仕立て上げたのが、97年に発表された初代レクサスRXであり、それは結果として今日的なSUVの出発点ともなった。

以降、RXは4世代にわたりレクサスの屋台骨を支えているわけだが、その間、SUVカテゴリーは大小多彩なモデルで溢れ、文字通り百花繚乱の様相を呈してきた。ライバルたちの驚くほど矢継ぎ早な商品投入がレクサスの動きを消極的に見せていた感は否めない。

NXが登場した2014年は、それほど他のモデルが充実し、比例して市場の期待値も膨らみ……と、新型車を売り出すタイミングとしては、やりづらかっただろうと想像する。しかし、その逆境をものともせず、NXは日本のみならず欧米や中国でも売れに売れ、RXとの両輪でレクサスブランドの販売面を大きく牽引するモデルに成長した。もちろん、人気カテゴリーという波に乗じたところはあるだろうが、それで片付けられる話ではない。

「そうなんですよね、NXが属しているのは、とにかくライバルの多いセグメント。だから発表時は、ベストを尽くしてトップのパフォーマンスを実現できたと思っていても、翌朝起きたら状況が変わっている。そのくらいシビアな競争の真っただ中にいることを、日々痛感させられています」

そう苦笑するのは、NXのチーフエンジニアを務める加藤武明氏だ。ゼロ・スタートでこのモデルを立ち上げ、育ててきた加藤氏は、現在RXのチーフエンジニアも兼務している。レクサスのSUVをもっとも深く、そして広く知る人と言えるだろう。

「NXはおかげさまで、各リージョンで継続的な人気を得ています。日本ではRXと販売トップの座を二分していますし、中国でも同じような傾向のようです。欧州ではNXが優勢、そしてRXが圧倒的に強いアメリカでもNXは販売台数を伸ばしつづけています。
個性的なデザイン、車格を感じさせないクオリティ感、重心を感じさせないスポーティな走り……といったあたりを、高く評価いただいているようです。そしてそれはまさに、我々の狙い通りでもあります」

数字にはならない“感性値”。「回り道も大事だな……と」

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それゆえか、今回NXに施されたビッグマイナーチェンジでは再びライバルを凌駕すべく、「補う」というよりも「伸ばす」側に力点を置き、中身を充実させたという印象を受けた。

「組み付け工程での細かな改善など、生産側の継続的な努力によって、ブラッシュアップされてきた項目もあると思っています。たとえば、車体のアコースティック性能や剛性などはその努力による伸びしろが大きい。さらに、外からの音の侵入を減らすよう、さまざまな隙間に遮音材を施すなどして静粛性を向上させています」

その車体に合わせて、足回りはリアスタビライザーをさらに強化する一方で、フロントスプリングは若干レートを弱めるなどの細かな変更を加え、ダンパーチューニングを見直すなどして、より自然な姿勢でしなやかに曲がりしっかりと踏ん張るという方向へと調律されている。

……と、乗り心地の向上に効くような施しはないにも拘らず、不思議なのは、そのドライブフィーリングに確実に上質感が加わっていることだ。

「音・振動にまつわる改善を加えたことで体に伝わるフィードバックも整理され、それによって乗り味も綺麗に澄んだ感じになったのだろうと考えています。評価数値にもそれは確かに表れていました」

わずかではありますが……としながら、加藤氏はこう続けた。

「もちろん、数値に裏付けされたパフォーマンス性能も大事ですが、我々は感性に訴える車づくりを標榜しているわけです。ですから、明確な根拠のない感覚的な性能向上の事象も大事にしなければならない。今回はそれが意外とうまくいったなぁ……と。自画自賛するわけではありませんが、回り道も大事だと思いましたね」

従来のスポーティな走りに大人の上質感をプラス

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ナビ画面が大型化し、情報の視認性が向上したコックピットは、目に入るものや手に触れるものなどの造作質感が相変わらず高い。そして走り出せば、「きっちり手を入れた」という静粛性の高さに感心させられた。走りのよさを前面に押し出す昨今のレクサスながら、やはりその根底にあるブランドのアイデンティティは“静寂”であって、声高に言わずとも、エンジニアはそれをどこかで意識していることが伝わってくる。

ドライバーの操作に対して軽やかに、機敏に動く応答性の高さは、RXとは一線を画するNXの特徴だが、そのビビッドなキャラクターはマイナーチェンジ後にもしっかりと活かされていた。

曲がる・停まる際の車体の動きも幾分抑えられ、フラットさやスムーズさが向上したように思える。いずれも、ドライバーの安心感や疲労度にはプラスに作用する挙動だ。

つまりNXは、このマイナーチェンジでより素早く軽妙なものになったというわけではなく、今までもち得ていたスポーティさに上質感を加え、より大人な乗り味を実現したと言える。

「もちろんライバルの動きも見つめながら、これからも細かいブラッシュアップの作業は続いていくでしょう。でもNXは大枠としてこのマイナーチェンジで、ほぼほぼやり切ったなと。そういう手応えは感じていますね」

3月のジュネーブモーターショーでは、新型コンパクトクロスオーバー「UX」がお披露目された。新たなLEXUSラインアップにおいても、中核となるであろうNXは、このマイナーチェンジで“完成”の域に達した。

その成熟ぶりは、短時間の試乗でも感じ取ってもらえることと思う。

加藤武明

かとう たけあき

製品企画 チーフエンジニア。1963年愛知県生まれ。86年トヨタ自動車入社。ボディ設計部でインストルメントパネル等の設計を担当。4年間の米国赴任、安全性能の先行開発を経て、2005年からレクサスIS、RXの開発に携わり、09年よりNXおよびRXの開発責任者。

渡辺敏史

わたなべ としふみ

1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

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