moment 2017年 11/12月号
レクサスを語る

LEXUS Sport Yacht Concept
海上のラグジュアリーな “隠れ家”

文・渡辺敏史

レクサスのDNAをもつラグジュアリーかつ高性能なクルーザーが市販化に向けて動き出している。“高級車ブランド”から“ライフスタイルブランド”へ——。このクルーザーはまさに、レクサスの覚悟と戦略を表明するものだ。

到着を目的としないラグジュリアス・モビリティ

「レクサス スポーツヨット・コンセプト」の衝撃

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自分の思いのまま自由に移動できる。

それは人間の本能的な歓びであって、その手段に優劣はない。当たり前のことを言うようだが、世界を見渡せばそうはいかない国もたくさんあるという現実を考えると、我々日本人は幸せな環境にいるんだなぁと思う。

そんな移動のひとときを、目的のための過程ではなく、いかに愉しみとして充実させるか。レクサスはその課題を、車を通して叶えることを目指してきた。言い換えればそれは、オーナーの日常を彩るための一助ということでもある。

今年1月、米国・マイアミで電撃的に発表された「レクサス スポーツヨット・コンセプト(以下、スポーツヨット・コンセプト)」は、車とは異なるモビリティを表現手段としながら、乗る人のライフスタイルを豊かなものにするという、レクサスの意思をより先鋭化させたものだ。さらにはこの5月、東京湾を舞台にしてのジャパンプレミアでも、レクサスらしい流線型を特徴とするデザインで取材陣を驚かせた。

欧米のライバルには真似のできない個性

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それにしても、「なぜ、ボート?」と不思議に思われる方は多いだろう。

たしかに、移動の手段としては合理的ではないかもしれない。が、移動の自由を実感しながらパーソナルな時間を満喫できるという点で、ボートには他のモビリティにはない魅力がある。

それに加えてレクサスの背後には、今年20周年を迎えたトヨタ自動車のマリン事業がある。これまで、約900艇のプレジャーボートを世に送り出してきた信頼の蓄積は、レクサスがそれをリアルに提案する後ろ盾として十分であり、欧米のライバルには真似のできない個性にも繋がるのではないだろうか。

美しいデザインと卓越した航行性能の融合

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係留や停泊にまつわる機能をコンシールすることで柔らかなアールが連続的に生かされた船体は、水面の際を浮遊しているかのような不思議な存在感を示していた。カッパーゴールドとガンメタリックのツートーンという、ボートらしからぬカラーリングとも相まって、スポーツヨット・コンセプトの佇まいには海にいながら宇宙的なインパクトがある。

「我々にとって、ボートは当然ながら未知の世界でしたから、デザインする上でいろいろと勉強をしました。そこでわかったのは、ボートには動くための絶対的形状がある一方で、機能要件が緩く自由に形状を決められるところもあるということ。前者はトヨタ自動車のマリン事業部門がしっかりサポートしてくれていますから、我々は後者のデザインで伸び伸びと自分たちの考えを表現することができました」

レクサスの澤良宏プレジデントは、スポーツヨット・コンセプトのデザインについて、知らぬがゆえに大胆になれたところも、このボートの存在感にひと役買っていると語る。

スポーツヨット・コンセプトに盛り込まれたレクサスならではのディテールは、エクステリアのみに留まらない。キャプテンシートの形状や質感は直接的にレクサスのプロダクトを思い起こさせるし、向きを強制されることなく快適に座れるパッセンジャーシートの形状的配慮にもレクサスらしいきめ細かさが感じられる。が、何よりその存在感を際立てているのは、船体の後部に搭載される2基のV8エンジンだろう。LCやRC Fにも搭載される2UR-GSE型は最高出力450PSを発揮。40ノット(時速約74km)以上の最高速をマークするという。

フルスロットルでの加速時に印象的なのは、やはりそのメカニカルなサウンドだ。速度の上昇とともにボートらしからぬ風情でクォーンと甲高い音を響かせ、乗員の気持ちを流れる景色だけでなく耳からも昂ぶらせてくれる。実用性を鑑みればもっと低回転型で燃費を重視したエンジンを選ぶのが普通だが、個性とコンセプトを際立たせる上で、このエンジンはこの艇になくてはならないものであるように思えた。

実際に動くことに驚かされたくらい、このスポーツヨット・コンセプトはとても端的なイメージリーダーの役割を果たしている。が、発表後の反響が関係者の予想を大きく超えるものであったことにも支えられ、レクサスは今、プレジャーボートの市場に正式参入することを検討しているという。

ライフスタイルとしてのオープンクルーザー

「海の真ん中に隠れ家みたいな空間が作れないか?」

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ところで、先述の「なぜ、ボート?」に対する答えだが、トヨタ自動車のマリン事業を統括する友山茂樹専務は、豊田章男社長の“思いつき”がきっかけになったと言う。

「スポーツヨット・コンセプトを造るという話の一端には、レクサスのチーフ・ブランディング・オフィサー(現在はマスター・ドライバー)である豊田の発想もあったんです。曰く、『海の真ん中に隠れ家みたいな空間が作れないか?』。そんな無茶を言われながらも検討していく上で、その話を実現するなら、トヨタよりもレクサスの方が向いているだろうということになるわけですよね。スポーツヨット・コンセプトは、トップダウン的なところで別物だったレクサスとマリン事業がスッと結びついたという感がありますね」

友山氏は今後のレクサス・ボートについて、スポーツヨット・コンセプトのままとはいかずとも、既成概念にとらわれないというこのインパクトを大切にしながら、使い勝手や居住性などの実用面を磨いて、2020年くらいにはその全容をお見せできれば……と今後のビジョンを語っている。

レクサスの考えるまったく新しいモビリティ。そう遠くない将来、実際に体験できることになりそうだ。

わたなべ としふみ◎1967年、福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2017年 11/12月号より