moment 2016年7/8月号
レクサス開発陣に聞く

LEXUS LX570 製品企画チーフエンジニア
小鑓貞嘉

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

昨夏、日本で発売され、その圧倒的存在感でSUV市場を制したLX570。「ランドクルーザー」のDNAとレクサスのエモーションの融合はいかに開花したのか。

小鑓貞嘉 こやり さだよし
1985年トヨタ自動車入社。2007年から「ランドクルーザー」シリーズとレクサスLXのチーフエンジニアとして開発を指揮。入社以来、一貫してフレーム車に関わる開発業務を手がける。大学時代に国内ラリー競技の魅力にはまり、トヨタ自動車入社後も含めると17年間参戦している。

フラッグシップSUVの名において

昨夏、日本で発売され、その圧倒的存在感でSUV市場を制したLX570。「ランドクルーザー」のDNAとレクサスのエモーションの融合はいかに開花したのか。

新型車の開発はお客さまの生の声を聞くことから始まる

本文を読む

渡辺:小鑓さんはとにかくお忙しくて、豊田(市)の本社はおろか、日本にすらほとんどいらっしゃらないエンジニアだと伺っています(笑)。じつは今回のインタビューの時間を調整していただくのも、かなり難航しました。

小鑓:ハハハ……それは失礼しました。まぁ、いろいろと車種を抱えていますから、その開発や海外での発表・発売などのスケジュールによっては、デスクを空けてしまうこともありますね。

渡辺:LX570 (以下LX)以外にも、トヨタブランドの「ランドクルーザー」全般を手がけていらっしゃいますものね。

小鑓:それぞれの車種に何が求められているか。その答えを販売地域のお客さまや販売店の生の声から求めるのが私の主義なんです。だから、世界の隅々まで足を運ばないことには仕事にならないんです。

渡辺:ということは、LXを開発するにあたっても……。

小鑓:はい、中東、ロシア、北米……と、いろいろな地域でお客さまにお会いしました。

渡辺:取材対象者はどうやって選定されるんです?

小鑓:やはりまず、販売店に行きます。でも、そこで納得して終了ということはありません。必ずお客さまを紹介していただいて、こちらから出向いてお話を伺います。伝言ゲームじゃありませんが、やはり間に第三者を挟むとフィルターがかかりますよね。販売店サイドを信用していないわけではありませんが、実際に車に乗られている方の生の声を拝聴すると、同じニュアンスでも訴求の力点を、声の強弱などを通じて受けとめることができます。そこに開発のヒントがあるんです。

LEXUS LX570

どんな道も走破する安全性と耐久性、高いレベルの快適性

本文を読む

渡辺:なるほど。北米と中東はわかりますが、ロシアもLXにとっては重要地域なんですね。

小鑓:国別で言えば、いま一番売れているのはロシアでしょうか。次いでアメリカ、中東と。ただし、中東は国別ではなく地域で括れば、もう圧倒的多数になりますが。

渡辺:たしかに、中東へ行くとLXの多さには驚きます。とくにカタールとか。

小鑓:ええ、LXのシェアがダントツに高い国です。交差点では必ず視界にいる。

渡辺:そう! 大げさでなく、本当に。

小鑓:カタールはかなり特別ですが、中東は昔から“ランクル王国”と言われるほど、「ランドクルーザー」に多大な支持をいただいている地域です。なかでも、生まれも育ちも彼の地、という方々には本当にご愛顧いただいています。

渡辺:その理由はやはり、安全性、耐久性に対する絶対的な信頼ですか?

小鑓:ええ、もちろんベースはそこにあります。あれほどの大都会にみえるドバイでも、1時間も走れば周囲は完全に砂漠です。そういう環境のなかで車が動かなくなるという事態は命を危険に晒すことになります。そこに関しての妥協は絶対に許されない。というより、それは徹底的に担保した上で、じゃあ何が求められるかという話になる。

渡辺:……と、そこでLXです。この車のメカニズムの基礎となっているのは、現行のランクルですよね。

小鑓:そうです。我々が200系と呼ぶモデルです。ちなみに先代の100系をベースとしたLXも、じつは日本市場に導入していました。「シグナス」というモデル、覚えていますか?

渡辺:ありましたね。角目四灯ライトの。

小鑓:そうです。あれを海外市場では2代目LXとして販売していました。初代はさらに遡って1996年から97年まで、2年だけの販売でした。これは80系と呼ばれるモデルがベースです。

渡辺:つまり、代々、最高グレードのランクルがLXのベースになっていると。

小鑓:そうです。そしてこの間、ランクルに求められた進化は、まず路面環境を問わず簡単に走り抜けられるという安心感。そして長距離を走っても疲れない快適性が挙げられます。それがLXになると、レクサス独自のスタンダードがありますから、さらに高いレベルを求められる。

スペックは世界共通。最上の装備を誇る“ワン・アンド・オンリー”

本文を読む

小鑓:ところで、今日は東京から豊田までLXを運転してお越しになったと聞きましたが、乗り心地はいかがでした?

渡辺:大変よかったです。が、乗り心地以上に感心したのは静粛性です。タイヤとキャビンが離れていることもありますが、ちょっと強烈なレベルで車内が静かですね。

小鑓:はい、そこは力を入れています。高速域ではボディ形状等で風切り音の不利もありますが、日本の速度域ならば路面からの音侵入、とくにタイヤ系のノイズなどについては、フレームにキャビンを載せる構造なので、路面凹凸の衝撃はモノコックボディよりもうまく遮断できますね。

渡辺:その反面、コーナリングの身のこなしはRXあたりよりちょっと重たいですね。あとは、車格を思えば後席足元がもう少し広ければいいかなぁ……と。

小鑓:ええ、わかります。オンロードのハンドリングはモノコックボディより劣ります。たしかに、後席の狭さはホイールベースを伸ばせば解消できます。とはいえ、この車の安心感や信頼性はフレームの強靭さ、そして寸法が大きな鍵を握っています。あらゆる状況で確実に走破するためには、ホイールベースをこれ以上伸ばすことは難しい。80系から200系まで、かれこれ四半世紀以上、ホイールベースを一切変えていないのもそのためです。

渡辺:もはやそれを変えることは、別の車になってしまうと。

小鑓:少なくとも、私が担当する車ではなくなるかもしれませんね(笑)。

渡辺:日本市場への導入がこのタイミングになった理由はあるんですか?

小鑓:さまざまなタイミングが重なったという感じでしょうか。私自身、常に導入の心づもりはしていましたが、今回は内外装デザインもすべてやり直して、クオリティもレクサスの名に恥じないところに高めました。満を持して……と受けとめていただければ有り難いです。

渡辺:日本仕様と海外仕様とで、仕立ての違いはあるんですか?

小鑓:ありません。LXは基本的に世界統一スペックで、考えうる限りの装備は全部盛り込んでいます。これは世界中どの地でも同じです。

渡辺:なるほど。では最後に、フラッグシップたるLXをつくられる立場として、レクサスのSUVが共有するコアを伺わせてください。

小鑓:うーん、そうですね。RXやNXに比べるとLXはちょっと特殊なメカニズムのモデルですが、共通するのはやはり「おもてなしの心」でしょうね。座ってドアを閉めた瞬間から伝わるレクサスならではの安らぎ、それは独自の個性として、つくり手の誰もが強く意識していることだと思います。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

レクサスのLX570、トヨタのランクル。
ゆるぎない信頼の根幹には、徹底現場主義のエンジニアがいる

本文を読む

傍目から見るに、トヨタが大変な気遣いとともにレクサスのブランドコントロールを行っていることはよく分かる。

デザインやマーケティングはもとより、ほとんどの開発工程においても専任の部署が担当。近年はそのものがレクサスインターナショナルとして社内で独立した存在になっている。スタンダードを標榜する大きな組織の中でプレミアムを構築する上で、それは重要な施策といえるだろう。

一方で、レクサスのブランドイメージにおいて重要なファクターが信頼性であることは、各エリアの顧客満足度調査でも明らかだ。何よりそれは、レクサスの車を日々お使いの皆さんが実感されることだと思う。

とりもなおさず、ユーザーの実感値でライバルメーカーを上回る信頼性の基礎はトヨタが築いてきたものだ。そして「ランドクルーザー」という車を、それも60年以上にわたり、世界へと広めてきた立役者でもある。ランクルなくして仕事や生活は成り立たない──そんな顧客がゴマンといると聞けばその責任の重みはもはや、一工業製品の枠を超えていると感じるほどだ。

さてLXだが、全域にゆとりをもたらす5.7LのV8エンジンと8速ATの組み合わせ、いかなる路面環境でも安定感の高い快適なドライブを約束するアクティブ・ハイトコントロール&アダプティブ・バリアブルサスペンション……と、新しいLXには独自のメカニズムが多数搭載されている。もちろん、先進運転支援システムも最新のものへとアップデート済みだ。水研磨工程が挟まれる艶やかな塗装のエクステリアはスピンドルグリルと調和するLEDライティングが採用され、ダッシュボードの形状から整えられたインテリアにはセミアニリンなめしのレザーや本木目のトリムなどが贅沢に張り込まれる。いずれも、レクサス最上のSUVならではの設えといえるだろう。

しかし、LXにおける一番のプレミアム性は何にあるかと問われれば、僕はランクルと共有する圧倒的な信頼性を挙げたいと思う。こと日本の路上では、それを命綱とするほどの過酷な環境に、日常的に晒されることはないかもしれない。が、究極の使用に堪えるべく長きにわたって磨き続けてきたメカニズムは、日々のドライブにおいても小手先では得られない安らぎを乗員にもたらしてくれるだろう。あるいは、突然の豪雨や大雪に見舞われても、その頼もしさを実感することになるはずだ。

LXをお買い求めいただいたならば、一度でいいからオフロードは体験していただきたいですね──自信たっぷりにおっしゃる小鑓さんは、いつお会いしてもよく陽に焼けている。それこそが徹底現場主義の証だろう。こういう人がつくる車に嘘はない。

わたなべ としふみ◎1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2016年 7/8月号より