moment 2019年 7/8月号
レクサスを語る

LEXUS RC F
“F”を象徴する
スポーツクーペ

文・渡辺敏史

レクサスの走りをけん引する“F”モデル。GS Fとともに二枚看板としてあるのが、クーペモデルのRC Fだ。今年1月、北米国際自動車ショーでマイナーチェンジしたRC Fがお披露目された。サーキット走行に主眼を置いた「パフォーマンスパッケージ」では従来型比でなんと約70キロもの軽量化に成功したという。“F”モデルとしての矜恃が果たした驚異の深化とは——。

「走るためにうまれてきた」 RC Fの凄味

サーキット走行と街乗り。いずれをも満足させるモデルの深化形

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レクサスのモデルにおいて“F”は特別なアルファベットだ。

広義ではスポーティなグレードを意味しており、ほぼすべてのモデルに用意される“F SPORT”は、別仕立ての内外装や足回り等をもって、静的にも動的にも標準グレードとは一味違ったフィーリングをユーザーにあまねく味わってもらうことを目的としている。

一方、“F SPORT”と同じ系譜にありながら、パフォーマンス的には完全に一線を画するものとなっているのが“F”だ。世界でも稀な高速レイアウトとなる富士スピードウェイを開発のホームグラウンドとする、すなわちハイスピードのサーキット走行を充分にこなせる特別なパワーやタフネスを備えながらも、街乗りでも快適に扱える柔軟性を兼ね備えたモデルにのみ与えられる称号となる。

現在、その“F”を掲げるのは4ドアサルーンのGS Fと2ドアクーペのRC Fのふたつ。レクサスの中ではもっとも小さくて軽く、運動性能に長けたモデルと位置づけられているのがRC Fということになるわけだ。

これまでも年次ごとに細かな改良を重ねてきたRC Fだが、この春に施されたマイナーチェンジではルックスもパフォーマンスも大きく変貌している。

一番の狙いは、RC Fの長所でもある運動性能のさらなる向上だ。

そのためにまず採られたのは軽量化で、骨格部位をアルミやカーボンのパーツに置き換えたり、大柄部品の駄肉を削ぎ落とすなど細かな見直しを積み重ね、前型より約20キロの減量に成功した。

次いでウィンドウモールのフラッシュサーフェス化やフィンパーツの追加、サイドステップの形状変更に加えてカナード効果を持たせたフロントバンパーの採用など、空力特性に大幅な見直しが施されている。これに合わせてサスペンションのセットアップも刷新されたほか、本来の車体剛性を活かし切るべくブッシュ、マウント類の剛性も変更されており、これらをもって操作に対する応答感が大きく高められたという。

クローズドコースの試乗では極端な軽さこそ感じることはなかったが、走りの全般においてレスポンスが確実に高められていることが実感できた。特に顕著なのはダイレクトなアクセルコントロール性とソリッドな操舵感。これらはエンジンやミッションといった大物部品がいかにカチッとマウントされているかという、目の届かない部位の進化がなければ現れないフィーリングだ。

「パフォーマンスパッケージ」が魅せる極上の非日常

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一方でこういった部品の動きをきっちり規制すると、乗り心地に悪影響が及ぶものだが、新しいRC Fはタウンスピードでも乗り心地はまったく荒れない。サスペンションが想定通りに動きダンパーが細かな入力にもしっかり応答していることが伝わってくる。

新型RC Fには標準グレードのほか、新たに「パフォーマンスパッケージ」というグレードが設定された。これはRC Fがもつキャラクターの非日常、つまりスポーティネスサイドをより強く押し出したもので、トランクリッドにそびえ立つカーボンウイングが物語るように、サーキット走行を存分に楽しみ尽くせる仕立てになっている。

空力特性はこのウイングだけでなく、フロントやサイドにリップを追加しており、これによって車体下面の整流効果も高められた。ともに小さな部品だが、200km/h超級の速度域からのブレーキング時などに確実な挙動安定化がもたらされるという。

“F”という非日常を楽しむ

徹底的な軽量化でさらに速くさらにシームレスに

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それ以上に大きな変化が期待できるのが徹底した軽量化だ。カーボンの材料置き換えはボンネットやルーフといった外板だけでなく内側の構造部品にも及び、エキゾーストエンドはチタン製に換装、さらにはカーボンセラミックブレーキや軽量設計の鍛造ホイールの採用により、車重は前型に対して約70キロも軽くなっている。

これほど車体が軽くなれば、その動きは標準グレードとは境界を明確にする。

ストレートでは速度の乗りも抜群で、コーナーでの激しい切り返しでも反応の素早さや動きの一体感はピュアなスポーツカーと比べてもなんら遜色のないものだ。ブレーキの硬質なタッチや強力な制動力、パワーを掛けていってもガッチリと路面を掴んでいく後輪の駆動感などは、走りを究めたいユーザーにも満足してもらえる本気の仕立てといえるだろう。

と、そんなキャラクターゆえ、今回は割り切ったのでは……と推された一般道での乗り心地が、望外に整っていたことは驚きだった。タイヤ周りの摺動(しょうどう)部品の軽さが凹凸の追従性を高めていることは想像に難くない。いかにも上等な部品が精緻に動いているという質感の高いライドフィールは、車好きには嬉しいものだ。また、これほどサーキットベストを追求していながら、最低地上高が標準グレードとほぼ同じでリヤシートも残されているあたりに、日常と非日常をシームレスに繋げるという“F”のコンセプトが活きていることが窺える。

ともあれ個人的には、RC Fシリーズにみる一番の魅力は、過給機をあてがわず純粋に高回転・高出力を追求した5LV8エンジンだと思う。計測燃費においての不利をおしてなお希少なスポーツユニットを搭載しつづけられる。それは片やハイブリッドで早くから電動化を推進してきたレクサスだからこそ許される贅沢だ。エンジンを元気よく回して唱わせる気持ちよさは、速度を問わず車の楽しみのひとつだが、RC Fはそれを臨場感たっぷりに味わわせてくれる、今や数少ない選択肢のひとつでもある。

わたなべ としふみ

1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2019年 7/8月号より