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moment 2017年 7/8月号
レクサスを語る

LEXUS LC
レクサス新章の
フラッグシップモデル

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

サーキットから街角へ。レクサスが追求してきたアグレッシブな走りとエレガントな佇まいの共存。唯一無二のクーペに、その答えはあった。

ラグジュアリーブランドの新しい方向性を形に

2ドアクーペという挑戦

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2ドアクーペの体をみれば、多くの人はそれをスポーツカー的な世界観と結びつけることだろう。そしてスポーツカー的な世界観といえば、サーキットでのラップタイムを価値の優劣として、運動性能を極限まで磨き上げたアスリートのようなものを思い浮かべるかもしれない。

誤解を恐れずに言えば、じつはレクサスLCは、そのスポーツカー的な世界観とは一線を画した2ドアクーペだ。大きなドアが2枚しかないという面倒も、それなのにしっかりと設えた小さな後席が用意されるという余剰も、基本的には前席のドライバーの移動を豊かに彩るためにある。

こういうコンセプトの車は、年を追うごとに少なくなっている。廉価な小型から高価な大型まで、多種多様な2ドアクーペが市場を賑わせていたのは90年代前半までの話だろう。車選びになんらかの色艶を託したい、そういう嗜好は利便性も両立できるSUVなどの新しいカテゴリーがフォローする一方、スポーツカーも相応の快適性を供せるようになったことから、どっちつかずとなった2ドアクーペは行き場を失ったとみることもできる。今やLCと同じような立ち位置にある2ドアクーペは、ロイヤリティの高い一部のブランドがカバーするに限られるというのが現状だ。

すべては2012年のLF-LCから始まった

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「商業的に難しいカテゴリーであることは承知していましたが、レクサス新時代を象徴するアイコンとして、ラグジュアリーな2ドアクーペを作る必要がありました」

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデントは、LCの前身にあたるコンセプトカー、LF-LCを2012年のデトロイトオートショーに登場させたことに遡りながら、それをレクサスの進化にともなう必然だったと語る。

12年といえば、折しもスピンドルグリルに代表されるレクサスの新しいデザイン語彙が世に示されるようになったタイミングだ。その頃から、レクサスの新章に向けての準備は始まっていた。それはハード側もソフト側も含めて、ライフスタイルを多面的に彩る新しいラグジュアリーブランドのあり方を模索する作業でもあったのだろう。

「当初はデザインコンセプトとして示したLF-LCに世界中から大きな反響があり、とくにアメリカからの強い販売要請もあって、開発に着手することになりました。しかし、プロポーションもメカニズムも既存のソリューションではまったく成立しない、それは誰の目にも明らかでした。そこで我々は、ゼロベースで新規のプラットフォームを手がけながら、LCを開発することになったのです」

LCの開発を統括した佐藤恒治チーフエンジニアには、それと並行して次世代のコアとなるまったく新しい後輪駆動プラットフォームを構築するというふたつの未知を形にすることが求められた。

未知のプロポーションとメカニズムを開発

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もちろんこのアーキテクチャーはLCだけではなく、次期LSが採用することは既定路線であり、さらには僕が推するに、燃料電池のような次世代動力源を受け入れることにも一定の配慮は加えられていることだろう。

“GA-L”とレクサスインターナショナル内で呼ばれるそのプラットフォームは、LF-LCと寸分違わぬと言っても過言ではない、流麗なプロポーションをLCにもたらしている。ディテールに目を向ければドキッとするほど低いノーズは、万一の対歩行者衝突時にボンネットを瞬時にポップアップさせる仕組みを採り入れることで生まれたものだ。そのセンサーが仕込まれるフロントバンパー周りの複雑な造形は製造においても装着にもっとも手間を要する部位であり、力強く膨らんだリアフェンダーのプレス成形と合わせて、生産技術側の努力の跡がみてとれる。もちろんトリム類の貼り込みやシフトノブの作り込みなど、LCの見せ場である内装部品は、サプライヤーの精緻な技術が大いに発揮されたところだ。

それらの集大成となるLCのアッセンブリーラインは、熟練工の手作業による工程を前提に約20分という量産車としては異例なほどゆったりしたタクトタイムが設定されており、目視や触感を多用した厳しい完成検査を経て日に約50台というペースで市場へと送り出されている。

澤プレジデント、そして佐藤チーフエンジニアともに、量ではなく質を追うために、新たな試みがいくつも盛り込まれたこのラインこそがLCを支える非常に重要な柱であると説く。

「ライフスタイルを車でいかに彩るか」を問う

LCを構成するふたつの「500」

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LCのラインナップはおもにふたつの「500」で構成される。ひとつはRC FやGS Fにも搭載される高回転型の5lV8をベースに専用チューニングを与え、新開発の10速ATを組み合わせたLC500。もうひとつは3.5l V6にモーターを組み合わせ、新開発のマルチステージハイブリッドシステムで制御するLC500hだ。後者は全域での高効率性はそのままに、従来のハイブリッドシステムの弱点だったアクセル操作と駆動伝達とのダイレクトな連携感を実現したと言う。

LCの目指した新たな世界観を端的に表現しているのは、500hではないか……というのが、限られた環境と時間ではあったものの、両車に乗っての個人的な感想だ。

モータードライブによる“静”とエンジンが加わっての“動”が1台の中に両居するハイブリッドならではの個性は、LCにおいてはやはり動の側で際立っており、ドライブモードを切り替えることによって存分に引き出されるその力強さやレスポンスのよさは、レクサスの標榜する「より鋭く、より優雅に」という洗練されたスポーティネスともピタリと符合している。一方で高速巡航時でも、積極的にEVモードを多用することによって訪れる静寂の時間からは、ラグジュアリーカーとしての新しさが感じられるはずだ。

対すれば500の側は、ハイパフォーマンスエンジンがもつ自然吸気・大排気量・マルチシリンダーという官能性を、音や回転フィールの面から存分に愉しめる仕上がりとなっていた。そしてサーキットレベルの速度域での動力性能や運動性能という点でみても、明確にスポーティなのはこちらの側だ。とはいえ、それは然るべきタイミングで鞭を当てれば、の話であって、常速域でのマナーは乗り心地を含め、非常に洗練されている。GTカー的な上質感とスポーツカー的な高揚感の狭間を縦横無尽に行き来する、そういうスマートさが500の個性といえるだろう。

製品ではなく手間を尽くした“作品”として

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「LCで目指したのは、理屈抜きで感性に直に訴える車です。馬力や最高速などのスペックには囚われずに、とにかく目に格好よく、走って気持ちいい……という一点を追求しました。それを実現するためにもエンジンの搭載位置や乗員の着座位置というところから骨格を構築し直しています。そして各々の数値的な開発目標を達成したところを出発点として、実地での走り込みを徹底的に重ねてきました。工場でのフィニッシュも含めて、製品ではなく手間を尽くした作品として世に送り出したい。そんな気持ちでした」

まだ、道半ばです……と佐藤チーフエンジニアは謙遜して付け加えたが、LCの仕上がりは確かに従来のレクサスのブランドイメージ刷新にふさわしい。しかも特筆すべきは、そのキャラクターがライバル勢とは一線を画す方向に向かい始めたということだ。それを踏まえて澤プレジデントはこう話す。

「今年はこのLCとサルーンのLS、ふたつのフラッグシップモデルを通してブランドの新章を問うことになります。我々は、量産ではなく、1台ごとの密度を高めてお客さまとの接点を大事にしながら、プロダクトとマーケティングの両面において、ライフスタイルを車によっていかに彩っていくか。そこにこだわっています」

成熟した市場が抱く車への期待値は、ひたすらエモーショナルなだけでもなければ、時間を退屈に埋めるものでもない。多様な情熱をTPOをわきまえながら適切に表現するLCの理知的な個性は、現在のラグジュアリーカーの声高な在りかたに疑問を感じるドライバー諸氏にフィットするのではないかと思う。

わたなべ としふみ◎1967年、福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2017年 7/8月号より