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moment 2017年 3/4月号
レクサス開発陣に聞く

LEXUS IS 製品企画 主査
小林直樹

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

レクサスISに乗り換える壮年層が増えているという。「街角からサーキットまで」の柔らかくもシャープな足回りとエモーショナルな走り。その裏には開発を“子育て”と言い切る小林主査の熱い思いがあった。

小林直樹 こばやし なおき
1986年入社。車両実験部でさまざまな車種の強度・信頼性評価に携わった後、94年〜2001年まで「カローラ」系の次世代フロントサスペンション設計や、操安性・乗り心地開発に従事。02年には初代「オーリス」の開発まとめを行った。新型ISでは主査として、開発全般の取りまとめを担当。趣味はゴルフ。

ISと対話する、エモーショナルな瞬間

レクサスISに乗り換える壮年層が増えているという。「街角からサーキットまで」の柔らかくもシャープな足回りとエモーショナルな走り。その裏には開発を“子育て”と言い切る小林主査の熱い思いがあった。

壮年層の支持上昇中! 働き盛りの40代がISを選ぶ理由

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渡辺:今回、ISは3年半ぶりのマイナーチェンジとなったわけですが、そもそもISは、レクサスではどう位置づけられているんでしょう?

小林:じつはISは若いお客さまに多く選んでいただいているモデルで、アメリカでは当社のラインアップの中で、お客さまの平均年齢が最も低いんです。

渡辺:それは意外ですね。NXやCTといったモデルのほうがそれに該当するのかと思っていました。

小林:アメリカでは購入年齢の平均が42歳ですから、ライバル他社の同等銘柄も含めて、お客さまの年齢がずば抜けて若いかもしれませんね。さらには、他社銘柄からの乗り換えが多いことも、ISの強みと言えるでしょうか。

渡辺:つまり、ISは初めてレクサスブランドを体験するお客さまのゲートウェイ的な位置づけになっていると。

小林:はい。その一方で、人生経験も自動車の知識も豊富な方々からは、手頃なサイズで上質な車だという評価をいただいてもいます。

渡辺:今、まさにそこをお訊きしようと思っていたんです。ISを支えるお客さま層は年齢も性別も幅広い印象があって、単に速さや目新しさを欲してはいないと思うんですね。そういう方々に対する訴求点として、どういうことを意識しているんですか?

小林:いろいろなことを意識していますが、じつはこれまでのモデルも、そういうお客さまからの評判は決して悪くないんです。

渡辺:個人的には、ちょっとスポーティ方向に振られすぎていて、ゆったり走りたい向きには足回りが硬いかなという印象がありますが……。

小林:レクサスの日本展開が始まった当初のISは、確かにスポーティネスを強く意識しており、街中では硬さが目立つ足回りの設定になっていたかと思います。しかしその後、IS自体も変わりましたし、お客さまの意識というか、嗜好も変わってきたかなという気がしていますね。

LEXUS IS

質感向上に照準を合わせ、すっきりとした乗り心地を実現

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渡辺:ISは今回のマイナーチェンジでさらにしなやかな乗り味になったという印象があります。熟年のお客さまにもその上質さを感じてもらえるだろうと。

小林:そういうテイストを、好んでいただけるようになってきたということでしょうか。ラグジュアリーカーに求められる“快適”といえば、かつてはフワフワと柔らかいニュアンスが好まれましたが、時代とともにすっきりしたしなやかなものへと変わってきていると感じています。実際、これまでのISも乗り味に関しては、女性や熟年のお客さまに好評をいただいていました。「思った通りにスッと動いてくれる」「運転が好きになりました」……そんな評価を耳にすると嬉しさと同時に、気が引き締まる思いです。

渡辺:では今回のマイナーチェンジでは、大幅に変更する必要はなかった?

小林:そうですね。ただし当然ながら、質感を高めていかなければお客さまに納得していただけませんから、そこは徹底的にやっています。まず、これは表立って伝えていないことですが、ボディはスポット溶接や補強部品等を要所に加えて固めてあります。

渡辺:その上で、足回りは全面的に変更されたと。

小林:骨格剛性を高めたことに加えて、フロントサスペンションのロアアームをアルミにして剛性強化と軽量化を図りました。大半の運動荷重は前側で受け止めることになるので、そこはどうしても譲れなかったところです。

渡辺:骨格を固めた一方で、サスペンションのバネレートは落としたと聞いています。

小林:骨組みを高精度で仕上げたことで、想定性能をしっかり発揮できるようになります。そうなると応答性や追従性も高まりますから、バネやアブソーバーを必要以上に締めてボディの動きを規制する必要もなくなるんですね。だからフロント側はやや落として、リア側のロール剛性は高めています。これによって高速域での安定性は向上しますから、日常シーンでの乗り心地はむしろよくなっているはずです。

渡辺:確かにそれは試乗でも十分に体感できました。街乗りでは細かな縦揺れが減ってフラットさがしっかり出てきている。

小林:そうなんです! 常速域でのフラット感というのはまさに狙ったところです。今回はサーキットも走っていただく機会がありましたが、そういう場面では運動性の高さに納得してもらえたのではないかと思うのですが……。

たとえば、アルミ材に「名栗加工」を施した化粧トリムの凄さ

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渡辺:ええ、それも明確に感じ取れたところで、リアサスペンションの改善効果もあって限界域でのコントロール性も向上しています。でも正直なところ、果たしてサーキット走行までをカバーするスポーティネスを必要としている人がどれだけいるかという穿った見方もできますよね。

小林:ええ、おっしゃりたいことはよくわかります。サーキット走行はあくまで余力の領域だと思っていますし、乗り心地で言えば、たとえばNXでも同等の性能を期待できる。ではISが担うべき役割は何かと言えば、やはりこのセダンボディゆえのコンパクトさや軽さ、重心の低さを活かした動的な資質のよさをいかに感じてもらえるかではないかと思うわけです。サーキットを走らずとも、通勤や買い物などの日常的な移動で、グッと後輪が路面を蹴って、ステアリングを切ればスッと曲がり、思い通りにピタッと停まる。数値では測れない体感的な気持ちよさっていうのが、ISの一番推すべきところだろうと。

渡辺:そうなると、車とドライバーとの対話性も深まりますよね。

小林:そう、まさにそこです。狙った運転に車が阿吽(あうん)の呼吸で応えてくれる。お、今のブレーキはよかったねとか。そういう対話感なんです、この車が一番大事にしているのは。

渡辺:一方で、レクサスブランドとしての統一性というか、キャラクターの横串も通さなければなりませんね。

小林:そこの部分で最も大切にしているのは、音・振動の低減ですね。ここはライバルに対しても絶対に負けられない領域です。疲れている時やリラックスしたい時には静かさや滑らかさで包みながら、いざしっかり走ろうと運転姿勢を正せば車が活き活きと応えてくれる。そういうダイナミックレンジの広さを意識しています。

渡辺:なるほど。

小林:それから今回、レクサスにとって大事なもてなしの要素である内装の設えや装備にも磨きをかけました。インフォテインメント画面の拡大やオーディオや空調のパネルの質感向上、アームレスト類のパッドの肉厚化や新しいデコレーショントリムの採用など、市場からのフィードバックも含めて考えられるところには余さず手を加えています。エクステリアの変更はもちろんですが、内装にはこれまでのお客さまにも進化を納得いただけるこだわりを詰め込んだつもりです。走りとともに、そのあたりもぜひディーラーでご確認いただければと思います。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

静的・動的質感を高めたISがブランドの中核を担う

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レクサスISの価格帯は今や数多のライバルがひしめく激戦区であり、それらは多彩なファンクションを備えてもいる。その中でISに求められる役割は、単にコンパクトで手頃というだけでなく、多勢のSUVでは叶えられない静的・動的質感をもってオーナーの満足度を高め、ブランドの確たる柱となることだ。

ISは1999年に登場した初代から、セダンボディゆえの重心の低さやハンディな車格を活かしての運動性能の高さ、つまりスポーティネスを前面に押し出してきた。代々採用し続けている後輪駆動形式は、ポピュラーな前輪駆動形式に対して室内空間や荷室容量を稼ぐには不利ながら、操舵感や応答性など運転のフィーリング面では捨てがたい美点をもつ。ゆえにISは、レクサスの動的性能の指針を体現するに欠かせないピースとも言えるだろう。

ただし歴代のモデルでは、スポーティネスを強く打ち出すがあまり、乗り心地の面で硬さが目立っていたのも事実だ。それはレクサスブランドのライバルに対する明確な差別化を打ち出すための力みだったとも受け取れる。

その力みがほぐれて乗り味に丸さが出たのが現行型だとすれば、マイナーチェンジを受けた新しいISは運動性能と快適性とのバランスがより深化したと言えるだろう。そして、その深化を支える源となったのが声高にはアナウンスされていない骨格の剛性と精度の向上にあることは間違いない。設計時の想定通りにサスペンションを動かすべく最も重要なこのファクターを密かに磨き上げたことで、新しいISは骨格側をより主体としてスポーティな走りを支えられるようになった。そのぶん、中低速領域に足回りのバネレートを最適化できたことで乗り心地もしっかり向上を果たしている。これなら最もスポーティなグレードとなる“F SPORT”でも、通勤や買い物などの普段乗りで不満を抱くことはないだろう。

一方で新しいISは、高速域での運動性能にも磨きがかかっている。この点は前型でもかなりのアベレージに達していたが、注目すべきは単にコーナリングスピードが上がったとかいう話ではなく、コントロール性が高まったという点だ。四輪の接地感が増しただけでなく操作に対して車体の姿勢が素直に現れる、これはスポーツドライビングだけでなく緊急回避などのアクティブセーフティにおいてもドライバーの自信に繋がることになる。ISには多彩な運転支援デバイスも備わるが、最後の最後で問われるのは手綱を握る乗員とその意志を汲む車との信頼関係だ。意のままに操れるということは、何も飛ばしてナンボ的な話に留まらないわけである。

新型ISは内装の質感向上もトピックのひとつだが、その象徴として印象的だったのはオーディオと空調のパネルのヘアライン処理だ。異なるサプライヤーから納められる部品の、嵌め込みだけでなく表面処理までもがピタリと揃えられている。細部に至るまでレクサスの世界観を統一するという、そのために注がれる執念の一端は、こういうところからも垣間見えることだろう。

わたなべ としふみ◎1967年、福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2017年 3/4月号より