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moment 2016年11/12月号
レクサス開発陣に聞く LEXUS RX

デザイン開発部 カラーデザイン室 グループ長
田中 彰

デザイン開発部 カラーデザイン室 主任
宍戸恵子

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

レクサスのデザインフィロソフィー“L-finesse(エル・フィネス)”。Lは先鋭、finesseは精妙の意だ。日本の文化が生み育んできた感性や巧みさを表現する“finesse”は、その包み込むようなインテリアにおいても体感することができる。レクサスが追究しつづける「レクサスらしさ」の真髄とは。

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田中 彰 たなか あきら(写真左)
1986年入社。「セリカ」「カローラ」の内装デザインを経て、91年よりカラーデザインを担当。96年からカリフォルニアにて北米生産車、2011年よりフランスにて現地生産車種のカラーデザインを手がけて16年に帰国。現在、レクサス全車種のカラーデザインを統括。

宍戸恵子 ししど けいこ(写真右)
2001年入社。RX、ESのマイナーチェンジを担当後、「マーク X」や「プリウス」のカラー戦略やモーターショーのコンセプトモデルなどを手がける。その後LS、L-select、CT、ESのカラーデザインを担当。現在は、CT、NX、HS、RXのカラーデザインを担当。

ジャポニズムの本質を極める

レクサスのデザインフィロソフィー“L-finesse(エル・フィネス)”。Lは先鋭、finesseは精妙の意だ。日本の文化が生み育んできた感性や巧みさを表現する“finesse”は、その包み込むようなインテリアにおいても体感することができる。レクサスが追究しつづける「レクサスらしさ」の真髄とは。

まずはお客さまにレクサスの世界観を認知していただくこと

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渡辺:おふたりが手掛けられている仕事は内外装のカラーやマテリアルのトータルコーディネートと伺っていますが、通常、車の開発では、インテリアとエクステリアとでデザインが専任化されていますよね。

田中:我々も意匠に関しては同様のプロセスですが、レクサスの世界観を全モデル共通で見ていくことや、新しい提案を織り込んでいくのが主な仕事になります。

渡辺:全モデルにレクサスらしさを通していくというのは、具体的にはどういう作業になるのでしょうか。たとえば内外装で使ってはいけない色や素材があるとか?

宍戸:絶対的な決まりごとや縛りというのは、じつはあまり設けていないんですよ。

田中:そうですね。それに加えて、クラスによって使えるものがあったりなかったりという上下関係的な規則もありません。

渡辺:とはいえ、そこをフリーにしてしまうと、ブランドだけでなくプロダクトの位置づけも曖昧になりませんか?

田中:恐らく、他社さんのプロダクトを想像なさっているかと思うのですが、たとえばIS・GS・LSの3モデルにおいて、我々の仕事では社会的なヒエラルキーは意識していません。

渡辺:つまり、区別はしていないと。

宍戸:そうです。むしろ、もっとも意識しているのは個性ですね。ISならスポーティ、GS、LSならラグジュアリーと、根本的な指向はありますから、そこを充分理解するようにしています。

渡辺:でも、上下をはっきり打ち出したほうが、開発側の理解もお客さまの認識も明快で、結果的にブランドの柱としてはガッチリしたものになる気がします。

田中:たしかに、歴史のあるブランドであれば、それは重要なことかもしれません。お客さまもそこに期待するところがあるでしょう。しかしレクサスはこのカテゴリーにおいては若いブランドです。自ら枠を設けるよりも、目指すところをお客さまに認知していただきたいということもありますし、そちらのほうが我々の可能性も広がると考えているんです。

LEXUS RX 450h

セーフティ&クオリティとレクサスらしい表現との共存を目指して

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渡辺:お話を内側へとフォーカスしていきたいのですが、レクサスらしい内装という点で意識していることはありますか?

宍戸:全体的なタッチの優しさやしなやかさみたいなところでしょうか。たとえばダッシュボードやインストルメントパネルなどに用いるパッド材の柔らかさやシボ(皺)感、シートなどに用いる革のなめしなどには気を遣っています。

渡辺:レクサスの革材といえば、セミアニリンの風合いが印象的です。

宍戸:そうですね。そこはレクサスらしさとして、すごく意識しているところです。それから、ウッドやアルミ、カーボン等の化粧トリムは必ず本物を使っています。

渡辺:ただ、たとえば革や木といった素材は、繊細な仕上げにするほど経年劣化への対応が大変になりますよね?

田中:ええ、その通りです。車内は温度や湿度、紫外線などの条件が非常に厳しい。そこはトヨタの中で培ってきた多くの知見も参考にしながら、我々が言うのもなんですが、非常に厳しいテストを行っています。

宍戸:化粧パネルなどは劣化を加速度的に検証するために、天日に生晒しするような曝露試験も行います。

渡辺:徹底しているんですね。車内の環境を鑑みれば、もちろん経年劣化もそうですが、温度管理なども重要でしょう。たとえば手や肌に触れる箇所に金属部品などはおいそれと使えないってこともありますよね。

田中:そのような車内空間での人の動きも含めて、デザインに昇華することをつねに念頭に置きながら造り込みを行っています。

渡辺:その中で、つねに新鮮なトライを織り込んでいかなければならない……うーむ、これはけっこう大変なことですねえ。

たとえば、アルミ材に「名栗加工」を施した化粧トリムの凄さ

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宍戸:ヒントになるような物事には意識して、つねにアンテナを張っています。たとえば新しいGS FやGS Fスポーツに採用した化粧トリムは、「名栗(なぐり)」と呼ばれる伝統的な木工技法をアルミ材で反映できないかと考えて実現したものです。

渡辺:ええ、こういう加工はたしかに数寄屋建築などでよく見かけますね。

宍戸:名栗加工は木材の運搬の際に虫食いが出ないように皮などを削ったことに端を発しているそうなのですが、戦国時代あたりから家屋の加飾に多く用いられるようになったそうです。これをアルミで表現するには、0.01ミリ単位の切削技術が求められます。

渡辺:えっ、これはプレス加工ではないんですか?

宍戸:アルミ材のプレスではここまで細かな凹凸や縁は表現できません。ただ、この名栗調のアイデアを実現してくれたのがサプライヤーさんの素晴らしい切削技術で、そこでしかできない加工です。

渡辺:おお、そんなに精密な技術なんですね。でも、素朴な疑問ですが、これを木材でやれば、より日本的な表現になりそうですが。

宍戸:それは考えなかったですね。スポーティモデルへの採用を考えていたので、スパルタンな印象を崩さずにどうやって和的な気づきを盛り込もうかと試行錯誤していたところで辿り着いた表現だったんです。

田中:日本という出自は我々もつねに意識していますが、そのままを移植するようなことはあまり考えていないんです。ひと手間、ふた手間を投じて知性や匠を感じさせる独自の世界観を創ることが、レクサスとしては大事ではないかと。そのためにも我々に求められているのは、素材や加工など最新の技巧をよく理解しておくことだと考えています。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

過酷な車内環境との闘い、出自を超えた“和”の表現……。
安穏なる調和を求めて、「レクサスらしさ」の探究は静かに続いていく

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レクサスのプロダクトにおける一番の魅力は何か?と問われれば、少なからぬ方々は恐らく快適性を挙げるのではないかと思う。

レクサスならではの快適性。それはもちろん乗り心地の柔らかさや騒音の少なさからくるものでもある。が、同様に静的な部分、たとえばレザーの触感やデコレーションの質感がそれを支えているという側面もあるはずだ。

そう、心を満たすインテリアの設えは、デザインのみで叶えられるものではない。どれがそのモデルの個性を引き出し、何がレクサスの世界観に適合するかを熟考し、素材を吟味し加工の精度を突き詰める。さりとてその成果が車内で悪目立ちすることはない。全体の雰囲気に静かに調和させることが求められる。

デザイナーと聞けば自由で華やかな仕事ぶりを想像するが、田中さんや宍戸さんの担うところはそういう内容であるがゆえ、新型車の登場とともに大きくクローズアップされる機会は少ないのかもしれない。が、それは確実に、レクサスのモデルに触れてみようとお客さまがショールームを訪れる動機に繋がっているはずだ。あるいは購入して車内の隅々を眺め触れて、その作り込みのきめ細やかさをしみじみと感じているのではないだろうか。車の魅力はなにも一目惚れ的なインパクトばかりを積み重ねればいいというものではない。こういう、ふわっと心惹かれるレイヤーも重要なのだと思う。

竹材や編杢、縞杢や今回の「名栗」など、レクサスのインテリアを彩るエレメントを見ていると、日本的なキーワードにしばしば出くわす。やはり日本のプレミアムという出自を強く意識しているのか? という問いに、田中さんは「はい」とも「いいえ」ともつかない答えを返してきた。

意識はする。でも、そのものはやらない。

その昔、日本にはシルクロードの終着点としてさまざまな文化が海を渡ってきた。そして先人は、その文化を自らの文化と戸惑うことなく融合させることで新しい価値観を生み出してきた。それと同様に、自動車が西洋発祥の文化であるならばそこに敬意を払いながら、いかに我々の様式を合わせていくかがレクサスらしい世界観を描く上で重要であって、和そのものをあてがうのでは新しいものは生まれない。

そんなポリシーのもとで生まれたアイデアが、日本の工芸を支える匠の技巧をもって形になっていく。なるほど、レクサスの車内で和を表現するに、これ以上の上乗せは必要ないだろう。

一方で宍戸さんは日々の仕事の傍らで、杢や革に限らずあらゆる素材や工法に目配りしながら、レクサスならではの表現方法をつねに模索しているという。温度や湿度、紫外線など、自動車の車内環境は相当に過酷だ。それでなくてもレクサスは、摩耗や摩滅、色褪せなどの劣化に対する基準がひときわ厳しい。それでも、美しい織物をあしらうレクサスのインテリアを拝める日はそう遠くないと、個人的には密かに期待していようと思う。

わたなべ としふみ◎1967年、福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2016年 11/12月号より