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moment 2016年 5/6月号
レクサス開発陣に聞く

LEXUS LF-FC チーフエンジニア
加藤武明

文・渡辺敏史 写真・川口賢典(人物のみ)

将来の水素社会を見据え、実用化に向けて開発が進む「LF-FC」。レクサス初の燃料電池(FC)自動車であり、未来のフラッグシップカーをイメージした次世代セダンだ。レクサスが描く人と車の近未来を探る。

加藤武明 かとう たけあき
1963年、愛知県生まれ。86年入社。ボデー設計部に配属され、インストルメントパネル等の設計を担当。2005年からレクサス車の製品開発に携わる。IS、RXの開発を経て、現在、NXとLF-FCのチーフエンジニアを兼任する。

燃料電池と歩む、エモーショナルな未来へ

将来の水素社会を見据え、実用化に向けて開発が進む「LF-FC」。レクサス初の燃料電池(FC)自動車であり、未来のフラッグシップカーをイメージした次世代セダンだ。レクサスが描く人と車の近未来を探る。

10年後のレクサスの立ち位置を示唆する「LF-FC」

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渡辺:昨年の東京モーターショーで発表されたコンセプトカー「LF-FC」は、レクサス初の燃料電池自動車ということで国内外から大きな注目を集めました。あとは実用化に向けて詰めていくのみ……。

加藤:非常にありがたい話ですね。東京モーターショーの際にも、来場者の方からさまざまなご意見をいただきましたが、おおむね好意的なものだったと理解しています。我々としましては、日本の皆さまに「レクサス、頑張ってるよね!」と言っていただけるのは何より嬉しいことですし、励みになります。

渡辺:メディアのなかには、これが次期LSなんじゃないかという先走った報道も見かけましたが。

加藤:ははは……。注目していただけるのはありがたいのですが、大前提として言えるのは、次期LSを物語るものではないということです。LSは担当のチーフエンジニアが、次のあり方を一生懸命考えています。

渡辺:となると、ますますLF-FCの位置づけは何か……という話になりますね。

加藤:現在、自動車を取り巻く技術は多角的に変わりつつあります。走ることで言えば、ハイブリッドおよびプラグイン・ハイブリッド、EV、そして燃料電池……と、ありますよね。走らせることで言えば自動運転技術が日進月歩ですし、車内ではデジタル化されたさまざまな情報を確認する必要がある。それらを踏まえてこの先どうしていくのか。それもずーっと先の遠い未来ではなくて、近未来の日本においてレクサスがどういった価値を提供するのか、その考え方を表現したということになるかと思います。

渡辺:近未来となると、向こう10年くらいの話になりますかね?

加藤:ええ、そのくらいの感じでしょう。

LEXUS LF-FC

ドライバーと車に主従なし。互いを補完するチームである

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渡辺:同じ尺度で未来を見据えた他社のコンセプトカーを見ると、モータードライブによるパッケージングと自動運転技術を活かした結果、ラウンジがそのまま移動するかのようになっているものを多く見かけます。

加藤:ああ、わかります。あれもまた、未来のひとつの描き方でしょう。でも、あれはレクサスの考え方とはちょっと違う。

渡辺:と、言いますと?

加藤:まずレクサスはライバルに比べて歴史の浅い、若いブランドです。これは社内でもつねに議論になるところですが、競争力のあるブランドに育てていくためには方向性としてはエモーショナルなところをしっかり押し出して、磨いていかなければならないだろうというところでは一致しています。

渡辺:すなわち、ドライバー主体でなければならないということですか。

加藤:短絡的には言い切れませんが、このLF-FCのようなフラッグシップ級のサルーンでも、ドライバーズカーとしての側面もきちんと兼ね備えていることが重要だと思っています。それから、もうひとつ。

渡辺:もうひとつ?

加藤:これはレクサスというより、トヨタも含めたコーポレートの考え方ですが、自動運転に関しては、目的ではなく手段なんです。つまりドライバーが車にすべてをやってもらうというのではなく、ドライバーと車は仲間であり、チームとして互いを補完するという関係性をコンセプトとしています。

渡辺:となると、車にすべてお任せの、お座敷に対面着座できるような自動運転車は考えられないというわけですか。

加藤:考え方としてはそうですね。たとえば車におけるセンシング技術、人工知能の役割は急速に発達しています。しかし、それはあくまでドライバーのヒューマンエラーをサポートするものであり、最終的な認知・判断・操作のプライオリティは人にあるべき、というのが今の考え方ですね。もちろん技術の進化によって多少の変化はあるかもしれませんが、この基本姿勢は変わることはないと思います。それから、LF-FCでは自動運転よりむしろ、人と車の触れ合い方の変化を表現したかったというところがありますね。

渡辺:たとえば、大型ヘッドアップディスプレイやジェスチャーコントロールなど、インターフェイスの進化を強く意識しているように見受けました。

加藤:そうですね。それらがいかに車としての進化と自然に調和するのかを意識しています。たとえばサイドミラーレスの時代はもう目前に迫っていますが、ではその後方映像をどう見せるのがいいのかと考えると、やはり今までミラーがあった位置にモニターがあるのが馴染みやすいだろう……とか、そういうことを考えながらやっています。

現在から未来への“ちょうどいい飛び感”

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渡辺:燃料電池に関しては、トヨタの「MIRAI」のものとは共通性はあるのですか?

加藤:ハードに関してはオリジナルですが、要素技術は言うまでもなく「MIRAI」のものが土台となります。基本は大型モーターによる後輪駆動ですが、近未来を考えると、インホイールを用いた4WDも可能性が見えてくるだろうということで、前輪側に小型モーターを加えて直進や旋回のアシストに用いるような考え方を表現しました。

渡辺:僕が個人的に一番興味深かったのは、これらの新技術を包んだエクステリアデザインが、わりとクラシカルなプロポーションをしていたことです。もしかしてエンジン入ってる? と思ったくらいです。

加藤:表現の上で一番意識したのは“飛び感”なんですよ。

渡辺:飛び感……?

加藤:ええ、ちょうどいい飛び感。旧態依然としていてはもちろんダメなんでしょうけど、コンセプトカーだからといって現実的可能性から著しく飛躍することもないでしょうということですね。10年後に実現できそうな技術を、フラッグシップサルーンという器のなかに盛り込んでみたら、デザインはどのように変化していくか。現時点の我々と関連づけられるギリギリのところを狙ったということです。だからデザイン的に見ても、LF-FCのエレメントはそう遠くない未来、レクサスの市販車に活かされていくことになると思います。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

未来という名の“現実”を見据えた燃料電池の開発。謙虚に、しかし絶対の自信をもって、レクサスは先陣を切った

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モーターショーにおけるコンセプトカー、その最大の役割は、そのブランドが指向する未来を見る者に問い、そして得られたフィードバックをコンセプトやデザインの更なる深化に用いることにある。プロモーション的な意向もなくはないが、あくまでそれは二の次。たとえ傍目には現実的とは思えないものであっても、担当するエンジニアにとっては真剣勝負である。

LF-FCに込められた未来は、およそ10〜15年後のレクサスを表したものだろうか。思い浮かべられなくはないというその距離感もあってか、車好きは既存のモデルとの関連性を疑いたくなる。或いは他社のコンセプトカーに比べると常識的、普通の車に見えると言う方もいるかもしれない。

ちょうどいい“飛び感”を狙ったというチーフエンジニアの加藤さんからしてみれば、それらの反応は織り込みずみ、もしくは期待通りなのだろう。もちろん車内に盛り込まれているのは、ここ10年前後で実用化が期待できる技術であることからして、LF-FCはこの先、断片であれ世に出ることも充分予想できる。特にコーポレート全体を挙げて取り組む燃料電池技術の展開については、実効性・イメージ向上の両面からレクサスが果たす役割は非常に大きい。水素で走るレクサスの登場は、そう遠い未来ではないのではというのが個人的な印象だ。

レクサスは若いブランドなので、やはりエモーショナルであることを、一定のリアリティをもって伝えることが大事だと思うと、加藤さんはおっしゃる。もちろんそれは謙虚な正論だ。が、一方でLF-FCの背景に見えるのは、他社に先駆けて燃料電池を実地で展開しているという絶対の自信でもある。現れた車がまったくの絵空事には見えないがゆえにメディアは興味を示し、次期LSではと勘ぐったりもした。個人的にはLF-FCの登場に、加藤さんの意見とは裏腹な、ある種のふてぶてしさを感じたのも事実である。

昨秋の東京モーターショーでのLF-FCのデビューに次いで、今年のデトロイトモーターショーではLC500の発売がアナウンスされたのをご存じの方もいるだろう。かつてLF-LCの名で登場したラグジュアリー・クーペのコンセプトカー、それが、ほぼそのままの姿や形で路上を走り始めることになる。いわんや、LF-FCとてこのまんまで世に現れてもそんなに驚かないけれども……と、そう思わせるほど、今のレクサスには勢いがある。そう感じているのは、僕のような外野よりもむしろ、同じコンセプトカーでも非現実的な未来感を押し出すしかない同業他社かもしれない。

わたなべ としふみ◎1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。著書に『カーなべ』などがある。

moment 2016年 5/6月号より