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moment 2016年 1/2月号
レクサス開発陣に聞く

レクサス・インターナショナル プレジデント
福市得雄

文・渡辺敏史 写真・川口賢典

SUVの「RX」、燃料電池を搭載したコンセプトカー「LF−FC」など、レクサスは未来へ向けての重要な示唆を次々と提示している。2015年の東京モーターショーで、福市得雄氏に、来し方行く末のレクサス哲学を聞いた。

福市得雄 ふくいち とくお
1951年生まれ。74年にトヨタ自動車入社。99年に同社第3デザイン部部長、2003年にデザイン統括部部長を務める。11年にデザイン本部本部長に就任し、14年より現職。

「唯一無二」こそ 未来への核心である

世界販売において旗艦車種となるSUVの「RX」、究極の燃料電池を搭載した最上級セグメントのコンセプトカー「LF−FC」の発表など、レクサスは未来へ向けての重要な示唆を次々と提示している。日本上陸10周年の節目となった2015年の東京モーターショーで、福市得雄氏に、来し方行く末のレクサス哲学を聞いた。

たらこスパゲッティと“Jファクター”

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渡辺:レクサスは2015年、日本上陸から10年を迎えました。その間、プロダクトもデザインも大きく変わってきたことかと思います。レクサスのデザインにおいて「和」は、この先どのように表現されていくものなのでしょうか?

福市:なるほど、そういう切り口ですか(笑)。承知しました。

たとえば、外からみた日本のイメージといえば、昔は富士山や着物、浮世絵といった、非常にわかりやすいキーファクターが挙げられていましたよね。

渡辺:ええ、そういう“日本の伝統美”を盛り込むことで「和」を表現しようとした車も過去にはありますが、おしなべてうまくいきませんでしたよね。

福市:出自でもある「和」をレクサスが意識していることは間違いありません。が、それはディテールではなく精神のようなもの。社内では“Jファクター”と呼んでいますが、その根底にあるのは、日本が島国であるがゆえの精神性かもしれません。

ちなみに、渡辺さんはたらこスパゲッティ、お好きですか?

渡辺:は? ええ、まあそうですね。うまいと思いますが(笑)。

福市:そう、うまいんです! そもそもスパゲッティという異食文化が日本の食材と融合すると、思いもつかないうまさが生まれる。

日本は島国だからこそ、異文化を巧く調和して昇華させ、それを文化として定着させてきました。我々が大事にしたい“Jファクター”はそれなんです。メカニズムでいえば、ハイブリッドが最たるもので、発表当初、外国では全然理解されない機構でした。

渡辺:たしかに! 動力源がふたつあって常に互助するなんて仕組みは、欧米人の感覚ではあり得ないようでした。業界関係者からは気持ち悪いという声さえ聞いたことがあります。

福市:しかし、そこに躊躇がなかったのも日本人の要素、つまり違和感を調和させてしまう“Jファクター”だったのかもしれません。結果的にベストが見い出せるなら、そこに突き進める。最後にはそれがオリジナルとなる。我々はそんなかたちで「和」を表現したいと思っています。

渡辺:なるほど。

東京モーターショー

スピンドルグリルは必然の産物だった

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福市:そうとは言え、一方で大事にしなければならないのは、オリジンに対する敬意や、必然に対する従順さです。

渡辺:と、言いますと?

福市:この10年で大きく変わった我々のエレメントとして、スピンドルグリルが挙げられますが、渡辺さんはあれが世に出た時、どう思われました?

渡辺:正直、ギョッとしました。これで統一するのって大丈夫なの? とも思いましたね。

福市:ええ、私もそういう感想をよく耳にしました。しかし、じつはあれこそが必然の形状なんです。上部で空気を採り入れ、下部はラジエターを冷やし、その左右はブレーキのためのダクトが構える。全ては空気の通り道であり、それらを合理的に一筆で繋いでみると、自ずとスピンドルグリルに行き着くんです。

渡辺:それに応じて、造形もアグレッシブに変化したわけですね。

福市:そして、そこに込められているのは、非常に古典的な100年以上続く自動車の歴史なんですよ。

渡辺:スピンドルグリルに、ですか?

福市:ご存じの通り、車は最初、馬車の延長でした。ボデーが舟型になり、泥はねを避けるためにタイヤを覆うフェンダーが現れ、それがボデーと一体化されていく。私どもは、その進化を踏まえ、外さないようにしています。見ようによっては過激なディテールもあるかもしれない。でもそれは着崩しの要素であり、骨として通っているのはノーズとテールを絞り込んだボデーとタイヤに被るフェンダーです。ちょっと俯瞰でみれば、どのモデルもその骨格を守っていることが伝わるかと思います。新しいRXももちろんそうです。

必然から生まれる進化。“唯一無二”が世界を変える

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渡辺:つまり、100年前の車とやっていることの本質は変わっていないと。

福市:変わっていない……というより変えていない。基本のアーキテクチャーは一緒です。スピンドルグリルにしても、必然から生まれたものでなければそれはファッションでいう色柄みたいなものとして一過性で終わってしまいます。但し、テクノロジーが進化すれば話は別です。極端な話、内燃機を積まないならグリルは圧倒的に小さくなるでしょうし、絶対にぶつからなくなればボンネットは必要なくなります。全ては必然が前提なんです。

渡辺:2015年モーターショーでは、燃料電池の搭載を前提にしたコンセプトカー、LF−FCのお披露目がありました。未来のレクサスは先進技術に対するスタンスをどのようにとろうと考えていらっしゃいますか?

福市:先のぶつからない車もそうですけど、安全と環境という要素は、レクサスのみならず自動車メーカーにとって最優先かつ必達の事項です。そして、そういう有用な技術は全ての車にどんどん搭載されるべきです。レクサスは車両価格が高めですが、そのぶん先進技術をインテグレートして販売しやすいという側面もあります。

一方で、我々が新技術の導入でコストダウンが進めばベーシックカーへの採用に一歩近づくわけです。その好循環を意識しつづけることが、モータリゼーションへの貢献も含めた我々に求められるスタンスなのではないでしょうか。

渡辺:最後にぜひうかがいたいのが、福市さんが考えるレクサスの未来における核心とはなんですか?

福市:それは「唯一無二であること」ですね。レクサスはまだ誕生から26年の若さです。そこへきて、ラグジュアリーブランドとして欧州の先達に肩を並べたというのはおこがましい。先述したように、我々には新しいものや異なったものをためらわず自分たちの文化と調和しながら昇華させるという先達からの特性があります。それをもって、是と思うことを諦めずに進めることが大事です。最初は万能を目指す必要はまったくありません。それが求められるものであれば、マイノリティがいずれマジョリティへと進化し、市場において万能なものに育っていくと信じているんです。

渡辺敏史

渡辺敏史の取材後記

四半世紀を経てレクサスが辿りついた、自然体という名のゆるぎなき自信

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国内展開10年という節目を迎えたレクサスが、この先どこに向こうとしているのか。僕がもっとも気になっていたのは、技術的な側面もさることながら自らの出自、つまり、日本の国籍をどのようにアピールしていくのかということだった。

絶対的な信頼性や精緻な仕上げ、きめ細かなおもてなしはもちろんその一部だ。が、その精神をもっと目に見えるかたちで世界に主張していくというステップを、そろそろレクサスは歩むべき時に来ているのではないか。インタビュー冒頭の質問は、その想いを伝え、答えを引き出すために福市さんにぶつけたものだ。

「渡辺さん、たとえば歌麿はフォーカス・グループのインタビューをやって浮世絵を描いていたわけではないですよね。ジャパニメーションやカワイイ系といわれるポップカルチャーだって、最初から海外を意識していたわけではない。日本の文化を無理に押し出す必要はないんです。それよりも、我々の心の奥底にあるものは何なのかを理解することが大事です」

「日本らしさ」とは何か。インタビューに出てくる“Jファクター”という社内のキーワードを説明する際に、福市さんは、こんなことも話してくれた。

石や木や水辺が何の規則性もなく配された日本庭園にある調和なき調和。日本人が昔から感応してきた“美”がいま、海外ではクールだと賞賛されている。そういう連綿たる皮膚感覚がもたらしたものは大事にしたい。そういう想いは、レクサスが紆余曲折の末に辿りついた“Jファクター”の核心、つまり、意識はしても狙いはしないということなのだろう。

先のモーターショーでお披露目されたLF-FCは、レクサスの次世代フラッグシップ級サルーンのプロポーザルと言われている。燃料電池というまっさらの価値を包むデザインは、あくまで古から進化を続けてきた車のカタチとの連続性が大切にされている。オーガニックな曲面のレイヤーが和の美観とオーバーラップするレクサスのインテリアデザインは、新しいRXにおいて、より洗練された表現に進化したように見える。

ライバルたる欧米のブランドと無理にでも一線を画するわけではない。唯一無二であることを追い求めつづければ、自ずと評価はついてくる。四半世紀の時を経ていま、レクサスが辿りついた価値追求の姿勢は、なにかを悟ったかのように自然体だ。一方で、その向こうには静かな自信も感じられる。その自信が今後のモデルを通じてどのように現れてくるのか。楽しみに待ちたいと思う。

わたなべ としふみ◎1967年福岡県生まれ。二輪・四輪誌の編集経験を経て、フリーランスの自動車ジャーナリストに。以来、自動車専門誌にとどまらず幅広いメディアで活躍。なかでも「週刊文春」の連載「カーなべ」は好評を博し、2015年1月同タイトル『カーなべ』として刊行。その緻密な分析とわかりやすい解説には定評がある。

moment 2016年 1/2月号より